最悪の結果
館の中は薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。水晶やら、何かが入った瓶の棚、乱雑にテーブルに置かれた本の数々。
とても人を招く店としては不格好であった。これでは人が寄り付くはずがない。
「相変わらず片付けられない奴だな…。おーい!サリバン!」
名前を呼ぶものの沈黙だけが内部を支配していた。出かけているのか、それとも聞こえてないか定かではないが仕方なく奥を探してみることにした。
「おーい!いたら返事してくれ、サリバン!」
奥に進んでいくとなにかの生き物の骨のようなものである装飾を施された、どこからどう見ても怪しげな扉があった。
試しにノックしてみるが反応は特に何も無い。
一応確認のために扉を開いた。
ガチャ……
ここも変わらず薄暗い。思わずこちらの気分が沈みそうになってしまう。
こんなところに住んでいたら恐らく何もかもが暗い人間になってしまうだろうとレイドは思っていた。
部屋に入ると部屋の奥、真ん中辺りに人一人が寝るには大きすぎるベッドがあった。
そこには人の形に膨らんでいる掛け布団が見えた。
(なんだ…。ここにいたのか…。真昼間に寝てるなんていい身分だな…。)
恐る恐る中へと入っていった。そこには気持ちよさげに眠っている女性の姿があった。
メタリックシルバーの髪に褐色の肌をしているその女性はいい夢でも見ているのかその顔は笑っていた。
「たくっ…。おいサリバン。おきろ。」
「うんん…。」
近づいて彼女の肩を揺するものの目を開けずに布団を被ってしまう。
どうあっても目を開けないつもりであるようだ。しかし彼女に起きてもらわなければここに来た意味がなくなってしまうのだ。
布団を剥ぎ取ろうして手にかけたその時。
その手をサリバンは寝ぼけているのか思いっきり引っ張った。
「うおぉ!!」
レイドは布団の中へと引きずり込まれていった。
まさにほんの一瞬のできごとである。抵抗する余地すら与えなかった。
彼女はレイドを抱き枕かのように身体全体で抱きしめた。
その時、レイドはふと違和感を感じていた。それはやけにダイレクトに人肌の温もりが伝わってくることだ。
「お、お前…まさか…。」
レイドは気づいてしまった。二つの大きな弾力のある丘とこの温もりにすべすべの肌触りいや間違いない。
「服着てねぇ!!!!?」
サリバンは服を着ることなく裸で寝ていたのだった。
大声を出したにも関わらず彼女それでも起きる気配が無かった。
彼女を寝顔は少し汗をかいているがそれすらも色っぽく感じられる。
「お、おい!ばか!起きろ!」
「うんんん…。いやぁ…。」
優しく頬叩いて何とか起きるように促した。このままでは色々とまずいと思ったのだろう。
何とか抜け出そうと身体をくねらせて脱出をしようとするものの、ものの見事に抜けられないようにキメられていた。
そんな拘束されたレイドにサリバンは何かの夢でも見ているのか、彼の顔をキスをしようとしていた。
「や、やめ!!あぁぁぁ!!!!」
逃れることはできなかった。もはや彼女のなすがままにレイドは汚されていくのだった…。
その後ようやく起きたサリバンは虚ろな顔をしているレイドをニタニタ笑っていた。
「もう…。そんな顔しないでよ。ごめんって。」
「お前の寝相の悪さを忘れてたよ…。」
ベッドに体操座りをして虚ろな表情をしていたレイドは彼女の性格を忘れていたことに酷く後悔していた。
これははじめてではない。以前も彼女を起こそうとした時、彼女から拘束されて酷いことをされていたのだった。
「別にいいでしょ?それに気持ちよかったでしょ?」
彼女は悪戯な笑みを浮かべていた。服はフード付きのローブを着ており下は黒いタイツのようなものを履いていた。
綺麗な透き通った紅い目はレイドを写していた。
「それよりどうしたの?ワタシのところに来て。死相でも見てもらいに来たの?」
「違ぇよ。そんなくだらないことでお前のところに行くかよ。」
「じゃあ何?」
サリバンは化粧台で香水のようなものを身体にかけていた。
彼女は占い師としてこの市街地から少し離れたところで占い屋を営んでいる。
とはいっても殆ど客は来ることない。と言うよりも近づかないのだ。
どうも不気味な雰囲気を出しているためだろうか。
「お前、グラスハートのことを知っているよな?」
その言葉を聞いて顔色が変わった。先程までのふざけたような感じは一切なくなっていた。
「あの下品で反吐がでそうな気持ち悪い淫乱クソ女のこと?」
サリバンは嫌悪感が丸見えの険しい顔をしていた。それにしてもかなりグラスハートのことを嫌いなのだろうか。
思わず引いてしまうほどの凄まじい暴言が出ていた。
「ま、まぁ…そうだな。お前の占いであいつがどこにいるのか占ってほしいのさ。」
「別に不可能ではないけど、なんでまた?」
二人は寝室から店の方へと歩いていく中で、ここに来た目的を説明していた。
当然彼女の本業は占いであるため、グラスハートの居場所を掴むことくらい造作もないことである。
だが、今更グラスハートを追ってどうするのか。サリバンはそう感じていたのだ。
「色々あってな…あいつをとっ捕まえるのさ。」
流石にナヴァロン校長との密約であるためほかの人間に口外することはできない。
そこでレイドは適当にはぐらかした。
今回の件は他の人間を巻き込むことはできない。
「そう。別にワタシにとってはどうでもいいことだけど…。」
「あぁ、それでお願いできるか?」
彼女はレイドが知る限りではトップクラスの占い師である。
もしあのような店構えをしなければもっと客は増やせる。しかし彼女はそのようなことは決してしないのだ。
理由は分からないのだが。
「じゃあ少し準備するから適当にくつろいでて。」
サリバンはそう言うと棚から何かを取り出していた。
レイドは言われた通り、近くにあった古ぼけて埃のついたソファに座った。
もちろんしっかりと埃を手で追い払って。
ソファに座ると正面に見える窓から景色を見つめていた。
とはいっても、建物ばかりで特に絶景が見えるわけでもない。
ただ何も考えずに外の景色を見つめていたのだ。するとだんだんと瞼に重みが感じるようになり、意識もだんだんと薄れてしまいには眠りについてしまうのだった…。
◇◆◇◆◇◆
一方のレイドの弟子達三人は優しげな笑顔をした美女に連れられていた。
初めこそは疑っていたものの、レイドのことよく知っていたようなので、すっかり信用していた。
「お嬢さんたちは学生なのかしら?」
「えぇ、オルタリアの学生よ。ところであなたの名前は?」
レクシィーは彼女の名前を尋ねた。
「私の名前はキュラソー。市街地から少し離れたところでバーをやっているの。」
キュラソーと名乗る人物はニッコリと笑みを崩さずに話をしていた。
そんな時にリンのお腹から盛大な音が響き渡った。恥ずかしさと食欲により複雑な顔をしていた。
「ふふ。お腹すいているのね。だったら私の店で何か食べていかない?今はまだ準備中だから。」
キュラソーは気を遣い自分の店で食事をしないかと提案してきた。
彼女たちはどうしようか悩んでいたものの、リンの何かお腹に入れないと死にそうな顔をしているため、呑むことした。
「じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」
「えぇ、もちろんよ。早速いきましょうか。」
リンの笑顔はパァっと笑顔に変わっていた。ようやくご飯を食べることができるその事に嬉しさをにじませていた。
「ありがとうございます!キュラソーさん!」
リンはお腹が空いているのも吹き飛んだような、元気な声でお礼を言ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
一方のレイドは占い師サリバンの店で彼の目的であるグラスハートの居場所を探っていたのだった。
二つの椅子とひとつのテーブル二人は向かい合うように座り、サリバンは水晶のようなものに手を近づけて紅い瞳で覗き込んでいた。
「…。」
「……。」
特に会話などなく部屋の中は沈黙が支配していた。もちろん会話がないのは意識を集中するためである。
彼女の占いのやり方はいくつか存在しているが、一番多用するのがこの水晶での占いだ。
しかしいくら意識を集中するためとはいえ、二人の空間に無言というものは辛いところがある。
「……。」
「……。あ、あのぅ…。」
沈黙に耐えきれずに思わず声をかけた。
しかし彼女はレイドの顔を見向けもせずに口を開いた。
「静かにして。」
「はい…。」
あまりに素っ気ない答えに主人に構ってもらえなくてしゅんとしている子犬ような顔をしていた。
(いや分かってる…。俺が完全に悪い…。でも…。)
心の中でレイドは思う。ちゃんと反省もしている。しかし彼には納得のいかないところがあった。
(なんでお前、服脱いでんだよ!!!?)
心の中でレイドは大きく叫んでいた。
それはサリバンの格好に対してのツッコミである。
彼女の格好というのものは上半身は黒のブラジャーという格好で下がガーターベルトのタイツであったのだ。
さっきローブを着ていたのに、脱ぎ捨てていたのである。
「いや…サリバンさん。」
「集中できないから喋らないで。」
「は、はい。それは重々承知しています。しかし…。」
低い物腰からものを申していた。彼女の冷たい言葉に耐えながらも何とか話そうと。
「何?」
「なんで上着てないんですか?」
ようやく言うことができた。さっきからずっと気になっており、どこに目をやればいいのか分からなかったが、ようやくそれも終わる。
しかしキョトンとした顔をサリバンはしていたのだ。
「なんでって…集中力を高めるためよ。」
レイドは呆気に取られていた。そもそも、服を脱いだところで集中力が上がるのだろうか?
恐らく冗談のような気もするが、割と真面目な顔をしているところから若しかしたら本当なのかもしれないとレイドは思った。
「嘘よ。」
「やっぱりかい!!てめぇ俺をおちょくってるのか!?」
ニコッとしてやったりの顔をしていた。やっぱりレイドをからかっていただけであった。
彼女はいつもそうである。
レイドをからかっていた弄ぶことに一種の悦のようものを感じているのだ。
「そんなにいきり立たないでよ。もうすぐで占い終わるから。」
誰のせいでそうなったのだ。そう心の中でレイドは考えていた。
ちなみに彼女の水晶の占いというものは、人間の個人個人に流れているオーラの波長などから人物を特定していくのだ。
もちろんこれはサリバンがその人物を知っているか、手がかりがなければ占うことはできない。
しかしサリバンはグラスハートのことを知っているため手がかりなしで占うことが可能だ。
「あの女市街地に今までいたのね。でもどんどん遠ざかっている…。」
「そうか。あいつの目的地が掴めれば一番いいな。」
グラスハートを見つけることができたことにひとまず安堵していた。
しかし移動中であるため、これだけでは追うのが難しい。そこでさらに検索をかけていくことにした。
「あら?」
突然サリバンは異変のようなものに気がついた。
「どうしたんだ?」
「グラスハートのオーラなんだけど…別人みたい…。」
その事を聞いたレイドは違和感を感じていた。
一体どういうことなのだろうか。人物としてはあっているにも関わらず、別人。一体何を意味しているのか。
人のもつオーラの波長が変わることなど生まれてから死ぬまで普通は変わらない。
例外を一つだけ除いて。
「レイドのオーラの波長も最初あった時と、変わったけどそれとはまた別の話よ。」
この謎の現象がどういうものか気にはなるところであるが、その人物自体がグラスハートであることには変わりはない。
今はそれで十分である。
「それともう一つ。グラスハートと思われる人間のすぐ後ろに三人の人間のオーラの波長がある。」
「どういうことだ?」
サリバンの言っている言葉がいまいちピンと来なかったレイドは聞き返した。
「まるでグラスハートについていっているみたい。」
「それってまずいだろ?グラスハートが獲物として狙っているってことだろ?」
もしかしたら彼女はその三人を殺すために人目につかないところにおびき出しているのではないかと考えた。だとしたら、とても危険である。
また次の被害者が出てしまう。
「一刻も早くいかないと!」
レイドは早々にグラスハートらしき人物を追うことに決めた。
しかしそんなレイドをサリバンは呼び止めたのだった。
「待って!そのその三人の中にレイド。あなたとよく似た波長の人物がいるわよ。」
「俺と似た波長?」
「そう。忌まわしい竜の波長がね。恐らくこれほどものは
その言葉を聞いた時、レイドの心臓は勢いよく鼓動した。
先程述べた途中でオーラの波長が変わるという話があったが、これの原因となるのが他でもない。
そしてその人物は三人のうち一人であること。
(ま、まさか…。)
レイドの脳裏には嫌な予感かがよぎっていた。
「サリバン!そいつの波長の色か性質みたいなのが分かるか?」
「できないことはないけど…。分かったわ。」
サリバンはレイドに言われた通りにその人物についてのオーラの性質と色を調べていた。
すると、サリバンは信じられないような驚きの表情をしていたのだった。
「紅い色にそして気性の荒い竜の波長がある…。でもこれはイフリートじゃない…。もっと別の…。」
その言葉聞いた時に確信に変わっていた。
間違いない。グラスハートについて行っている3人とは、レクシィーたちであると…。
その瞬間冷や汗が大量に流れ出ていた。
どうして彼女たちがグラスハートについていっているのか皆目見当がつかない。
しかしそれよりも彼女たちの身の危険に焦っていた。
「あいつらが危ない!!!」
慌ててサリバンの館を飛び出していった。
「待ちなさいレイド!!!」
サリバンの静止をも振り切りただひたすらに彼女たちの元へと一刻も早く辿り着こうとしていた。
「ふふ。ようやく恐怖を抱いたわね…。レイド…?」
ただひたすら街中を一心不乱に駆けていくレイドを建物の上から胸元の大きく開かれたドレスに身を包んだ妖艶な女が不気味な笑みを浮かべて笑っていた…。
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