第2話 私という存在
学校近くの
学校に着き、いつものように
教室に入り、自分の席に座るとそのまま机に突っ伏してしまった。このままギリギリまで眠っていたいそんな気分だった。
いつもなら同じクラスの友人の一人でも、おはようと声を掛けてくるようなものだが、今日は誰にも声を掛けられなかった。一番仲のいい
予鈴が鳴り、クラスメイトたちは自分の席に着いて、わずかな時間を利用して、テストのために追い込みをかける。そのとき遅刻ギリギリで一人の男子が入ってくる。彼は余裕のある側の代表格の
今度はホームルームを開始する本鈴が鳴る。
しかし、いつもは遅くともチャイムと同時に教室に来ている担任の
広谷先生は教壇に立つと、クラスの顔をゆっくりと見渡し、私の席を再度見やり、しばらく視線を止める。そして、一つ息を吐いてから出席簿の上に重ねていた一枚のプリントに目を落とす。
普段ならば、教壇に立って出欠を確認し、連絡事項を伝える。途中、
そんななか廊下に別のクラスから大きなざわめきが聞こえてくる。それも普段ではありえないことで、何か異常な出来事が起こっているのだけは伝わるがそれがなんなのか分からない。
「とりあえず、欠席は……
広谷先生は小声でぼそりと自分自身に確認するように言う。そして、顔を真っ直ぐ前に向ける。
「みんな、おはよう。今日はみんなに伝えなければならんことがある。重要なことだから聞き漏らすなんてことはするなよ」
広谷先生は出席簿の上のプリントに再度目を落とす。
「昨日、ウチのクラスの
教室内に驚きの波が広がる。私は、広谷先生が何を言っているのか分からなかった。
「先生、くだらない冗談やめてくださいよ!」
「こんなこと普通、冗談でも言うわけないだろ……ちょっと黙って聞いてろ」
広谷先生がきつい口調で注意する。その真剣な顔に教室は静まり返る。
「そして、ここからが重要なことなのですが、安居さんの遺体が見つかったのがここ
そこからさらに説明は続いた。一階の小会議室に警察が詰める事になること、クラスが同じだということで何か聞かれることがあるだろうこと、その際には協力すること、何か心当たりがあれば警察か話しやすい教師に話すことなど淡々と伝えていく。それは
しかし、私は途中から話が耳に入ってこなかった。
「安居朱香さんが亡くなりました――」
ここだけが頭の中でリピートされる。安居朱香――それは私の名前だなのだから――。
「私はここにいますっ!! ちゃんと生きていますっ!!」
広谷先生の説明が続く中、ふいに私は立ち上がって叫んだ。しかし、誰も私の声なんか聞こえてないかのように
「そんな……そんな嘘でしょ……」
私は今日ちゃんと登校して、今こうやって座っている。机には今日持ってきた鞄が掛かっている。視線の先に入ったのは鞄だけでなく、体操服を入れているショップ袋も掛かっていた。
「なんで……?」
私は体操服を体育の授業がある日に持ってきてその日のうちに洗濯のために持って帰るので、教室に置きっぱなしにはしない。それなのに掛かっているということは体育の授業ために持ってきたということになる。そして、体育の授業は今日はない。体育の授業は昨日で――つまりは、昨日からずっとここに掛かりっぱなしなのだろう。それは鞄も、ということになる。
状況が
私は頭を抱えて今日のことから記憶を
そのまま私が死んだという昨日のことを思い出そうとする。しかし、よく思い出せない。それだけでなく、無理に思い出そうとすると電気が走ったように頭に痛みが走り、大事なところだけ
昨日、一日の記憶が抜け落ちていた。
それでも私にとっては大事なことがあった気がする。もちろん死んでいるのだからそれどころではないのだけれど――。
私は今分かっていることを整理する。
私は昨日死んでいて、
幽霊と言っても、足はあるし、体も
例えば、机を持ち上げようとしても机に触れた感触がなく力をこめると机と床が一体になっているかのように動く気配すらない。人も同じで前の席の人の背中を触ろうとすると薄い膜のようなものがあるかのように触ることができないのだ。全部が全部そんな感じだ。
教室の後方で落ち着きなく歩いている仲島先生の進路に邪魔するように立ってみても、ただすり抜けていくだけだった。自分からは触れられない、相手からはすり抜ける。
「変なとこだけ幽霊っぽいじゃん、私……」
私はもう生きてはいないのだということをひどく実感させられ、死というものを受けいることができないまま、教室の
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