第184話 05.シングルムーンの結婚式
●●●フローマー●●●
今日はベルギウスとティアナさんの結婚式。
この異世界では、ずっとベルギウスの隣に入れると思っていたのに、これからは私じゃなくてティアナさんが隣にいることになるんだな。
猫としても側にいられないなんて…。
飼い猫として、側に置いてくれるかな…。
飼い猫にしては、大きすぎるかな…。
しかもその結婚式の日が、シングルムーンの日。
結婚式とノーラ王妃を倒しにいく日が同じなんて馬鹿じゃないの。
ノーラ王妃を倒す日はシングルムーンってずっと前から決まっていたのだから、どうして結婚式を別の日に動かせなかったのかな。
要人のスケジュール調整がつかなかったみたいで、どうしてもこの日しか都合がつかなかったみたいだけど…。
まったく何考えているんだか。
イライラしちゃう。
だって私は今、一人、部屋のすみでうずくまっているのだから。
今日はシングルムーン。
数時間だけだけど、猫から人間に戻ってしまう日。
人間の姿(裸)を見られないように、体をマントで覆ってじっとしているの。
お母さんからもらった解呪の薬を握りしめたまま。
戦闘力の弱いナナの姿で戦うのは危険だから、フローマーのまま戦いたい。
だけど戦いが終わったら、ベルギウスはティアナさんと一緒に暮らすことになる…。
戦いが終わったら解呪の薬を飲んで
振られてもいいから、最後にちゃんと自分の口で、ナナの姿で気持ちを伝えようかな。
窓の外からは、楽しそうな音楽や人の声が聞こえてくる。
王女の結婚式となれば、国はお祭り騒ぎだ。
皆、楽しそう。
むなしくて悲しくて、マイナス思考に陥っちゃう。
ベルギウスは私(フローマー)がいるのに、結婚しちゃうし。
どうせ私は猫…。ただの猫なんだから…。
泣くとストレス解消になるらしいし、誰もいないから、涙だって遠慮なく出ちゃうんだから。
バサッ。
目の前に何か置かれたような音がして、びっくりして、膝から顔をあげた。
折りたたまれた布のようなものが、わきに置いてある。
見上げるとドミニクさんがいた。
「これは?」
「エルフの服だ。気分転換に外に出るぞ。」
猫になってから、着る事がなくなった洋服。
日本では女優として、毎日可愛いお洋服を着せてもらってたりしたから、洋服が着れるのはすごく嬉しい。
モフモフが生えていない肌色の腕を袖に通してみる…。
シンプルだけど、大きなリボンのベルトがついた、可愛いワンピース。
ん?おパンツの準備まで!?ドミニクさんったら…。
でも、おパンツはとっても助かる。
無いとスースーしちゃうからね…。
「このワンピース、ドミニクさんが選んでくれたのですか?」
「ま、まぁな。」
「可愛い、ありがとう…。」
ドミニクさんに連れられて、コルネリア王国の城下町に出た。
いつもは夜になるとお店は閉まっているのだけど、今日は特別!
どの店も開いていて、道はエルフで溢れかえっている!
女の子たちは、いつもよりもオシャレしていて、みんな可愛い。
すごくエルフが多いので、はぐれないように、ドミニクさんが私の腰に手をまわして、守ってくれている。
ドミニクさん、とても頼もしくて、すごく優しい…。
いつもは猫でニャーしか言えないから、あまりお店に立ち寄らないけど、今は人間!
「あれ食べてみたい!」
大好きなアイスクリームを売っているお店があったので、迷わず立ち止まって注文した。
「すみません、ふたつ下さい。キイチゴたっぷりで!」
人間だから問題なく注文できる!
大好きなキイチゴ、多めにできた~~~。
言葉が話せるってとっても便利♪
少し歩くと、小さい広場にでた。
楽器を弾いている人、それに合わせて踊る人、歌っている人、お祭り騒ぎ!
見てるだけでも、すごく楽しい。
広場の中央には噴水があり、淵に腰かけて、少し休憩。
「ドミニクさん、悲しいはずの数時間が、おかげで楽しい時間に変わりました。
本当にありがとうございます。」
ドミニクさんの顔を見上げる。
シベリアンハスキーの凛々しい顔立ち、スカイブルーの瞳、犬だけれどハンサムとは思わずはいられない。
「ベルギウスには、人間の姿で一度振られていると言ったな。
どうして姿をごまかしてまで一緒にいるんだ?」
「猫になったのは事情があったからで、好きで猫になったわけではないのです。」
「ノーラ王妃との戦いが終わったら、ベルギウスではなく、俺と一緒に暮らさないか?
今まで傭兵をしていたのは、俺の国ゾーンエック国で商売をしたかったからなんだ。
金は十分にたまったから、そろそろ腰をおちつけようと思ってな。」
「ゾーンエック国?」
「あぁ。人獣の国さ。
お前と同じ猫族もたくさんいる。」
そうか、ベルギウスは結婚したという事は、コルネリア王国でティアナさんと一緒に住むんだ。
ベルギウスと一緒に楽しく過ごした、あのマルゲリータ邸にはもう住めないんだ…。
生まれ育ったヴァルプルギス村には、エルフじゃないから帰れないし…。
私って帰ることろが無いんだ…。
「俺にとっては、猫だろうと人間だろうと、姿は関係ない。」
「一緒に暮らすって、それって…。」
「お前が望むなら、結婚でもなんでもしてやる。」
そういって、ドミニクさんは抱きしめてくれた。
「返事は、ノーラ王妃との戦いの後でいい…。」
そういえば、私はもともとこの世界の人間だった…。
こっちの世界の人と一緒になるのが自然なんじゃないかな…。
ドミニクさんとなら、猫の姿でも会話はできるし、暮らしやすいかもしれない…。
大通りの方が、人があつまり、一層騒がしくなった。
「今、こんな話して悪かったな。気分転換に行ってみるか。」
人々の視線の先を見ると、馬車にのったベルギウスとティアナさんがいた。
二人で笑顔で国民に手を振っていた。
ティアナさんは私のワンピースとは比較にならないほど豪華なドレスを着ていて、とても美しかった。
あまりの美しさに、同じ女でも見とれてしまう。
「ナナちゃん!」
ベルギウスと目が合ってしまった。
ベルギウスは馬車から降りてきて、こっちに向かってくる。
しまった!
ナナがこの世界にいることがばれてしまった!
逃げようと思ったけど、すごい人込みであまり動けないでいると、手をベルギウスにつかまれてしまった。
「ナナちゃんだよね?」
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