第176話 12.サロンで
夜が明けて、コルネリアの自分の部屋に到着した。
なんとか魔力切れを起こす前に、コルネリアの土地に入ることができた。
この部屋もノーラ姫にばれるのは時間の問題だろう。
どうしてもここに寄ったのは、禁忌の魔術書があったから。
村から持ち出したこの禁忌の魔術書だけは誰にも見せてはいけない。
あんな事、二度と起こってはいけない。
この魔術書は誰にも見せられない。
コルネリア王国では、ノーラ姫にとっては他国だから手荒な事はできないはず…。
でも他国の姫から命を狙われて、この世界のいったいどこに安全な場所があるのか…。
帰れる場所と言ったら生まれ育った村だけど、村のみんなに迷惑かけれないし…。
安全に子供を育てられる場所どころか、逃げる場所すら思い浮かばない…。
頼れる人は…、
私が頼れる人なんて、そんなにいない。
アクセルだ、あとはアクセルしかいない。
仕事をするための服装に着替え、禁忌の魔術書を持って、コルネリア王宮に向かった。
◆◆◆
朝早いので、城にまだほとんど人はいなかった。
アクセルも一国の王子だから、なかなか個人的に会う事はできないのだけど、コルネリア王宮で働いているので、いろんな噂は入ってくる。
アクセルは毎朝、王宮の外庭を散歩しているって聞いたことがある。
ここで会えなかったら、もう本当に機会はない。
「アクセル!」
やっぱりいた!よかった!
「マルゲ!こんな朝早くにどうしたんだい。」
「私、命を狙われてるの。助けて…。お願い…。」
大粒の涙がとまらなかった。
アクセルに拒否されたら、もう本当にどうしたらよいかわからない。
「ど、どうしたんだよ。マルゲ。」
私は全てを正直に話した。
妊娠していること、ノーラ姫にばれてしまい、命をねらわれている事。
「今朝、レオンハルト王国から僕に使いの者が来ることになっている。
おそらくその事だろう…。
ここじゃまずい、サロンの場所を覚えている?
あの部屋は俺にしか使えない部屋だから、今日はサロンに身を隠しているといい。」
◆◆◆
サロンはアクセル専用の部屋で、コルネリア王宮の端にある。
お茶を飲むための部屋みたいなのだけど、アクセル個人がお客様をもてなしたり、大事な話をするときに使っているようだった。
初めてディートとゆっくり話したのも、ここだった。
アクセルの部屋なのに、まるで自分の部屋のように偉そうにしていたディートが懐かしい。
今や、そんなディートの子供が自分のおなかの中にいるなんて、不思議な気分。
暖かいハーブティーを飲んだら、眠気が襲ってきた。
そう、昨夜は一睡もしていない。
それにずっと逃げ回っていたので、疲労もすごい…。
さすがにアクセルの個室まではノーラ姫の追ってもやってこないだろうという安心感もある。
私は眠りに落ちた。
◆◆◆
「マルゲ。まずいことなった。起きて。」
アクセルの声で目が覚めた。
そうだ、ここはアクセルのサロンだった。
窓の外を見ると、もう夜になっているようだった。
「今日、レオンハルト王国から使者が来ることになっていたのだが、来たのはノーラ姫だったよ。」
「ノーラ姫が直々に?!」
「そうだ。そして、君を殺人者として指名手配したので、見つけたら身柄を渡すようにとの事なんだ。」
「私、誰も殺してない!
昨日の戦闘だって、私は金縛りの術しか使ってないのっ!
金縛りの術では人は死なないの分かるでしょ?!」
「マルゲ、それは関係ないんだよ。
王族はそんな事実、簡単にでっちあげられるんだ。」
俺も君を匿っていることがバレたら大変な事になる。」
一国の姫を相手に、逃げ切れるわけがない…。
「ノーラ姫は、君がコルネリア王国のどこかにいると思っているらしく、しばらくこの王宮に滞在することになった。」
この国の、この世界のどこにいても、私は生きていけないだろう…。
どうしても、この手段だけは使いたくなかったけど、もうこの方法しか思い浮かばない。
禁忌の魔術書…これをつかうしかない。
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