5章 フローマー
第132話 01.ナターシャ・ヴァルプルギス
「そろそろごはんよー。」
気持ちよく寝ていたら、隣の部屋からお母さんの声が聞こえてきた。
「ふごっ」
眠い~。
でも、お母さん怒り出す前に、なんとかベッドから抜け出して、顔を洗わないと…。
鏡を見ると、そこにはいつもどおりの、赤い瞳、赤いカーリーヘア、とんがり耳、エルフではとても一般的な姿の私がそこにいた。
一応女子だから、身だしなみを整えてと。
食卓に着くと、パンが一つとチーズが一かけら…。
「お母さん、朝ご飯、少ないよぉ。」
「ごめんね、ご飯が少なくて。
最近干ばつで水が少なくて、野菜がとれなくてねぇ。」
ふてくされながら、あっという間にご飯を食べ終えて、お外に出る。
今日はマリアンネお姉ちゃんに会う約束があるの!
「いってきまーす。」
「いってらっしゃーい。遅くならないようにね!村の外には危ないから絶対に出たらダメよー。」
「分かってるって!」
私はコルネリア王国ヴァルプルギス村のナターシャ。
私の村のエルフは、コルネリア王国の中でも、とても魔力が強くて有名なの。
村の水がとても綺麗なため、その水で育つエルフは特別の魔力が高くなるのだそう。
他の村のエルフに会ったことがないから分からないけど、大人たちは皆そう言ってる。
この村以外のエルフ?見たことないよ。
村の周りに出るモンスターは闇属性という珍しい属性で、しかもレベルが高くとても強いので、他の人達はなかなか来れないの。
でもね、ヴァルプルギス村の中はとても安全。
魔力の一番強い村長が結界を張っているから、モンスターどころか村人以外は入ってこれないの。
私は何もしなくても村を出入りできるから、結界があるなんて信じられないけど、それは私がこの村の村人だからなんだって。
他の村のエルフがこの村に入るためには、ヴァルプルギス村のエルフと同時に入らないとダメなんだって。
「待ってたよ。ナターシャ。」
「今日は何して遊ぶ?」
3歳年上のマリアンネお姉ちゃんは18歳!
すっごいかっこいいんだから!
魔力がすごく強くて頭もすごく良いから、王宮学校に行くことが決まっているんだよ!?
すごいよね!
もう少しで村から居なくなってしまうのは、とても寂しいけど、とってもかっこいい!
「なぁ、村の少し外に、聖なる剣があるの知ってるだろ?」
「光属性の剣でしょ?コルネリア王国が危なくなった時に勇者が現れて、その剣を使うんでしょ?
でも、誰もこのヴァルプルギス村に来ないし、エルフはそもそも剣なんて使わないし。」
「行ってみよう。ナターシャ。」
「でも、聖なる剣は村の外だよ。お母さんが村の外には行ったらダメって。」
「王都に行く前にどうしても一度見たいんだ。
怖いなら来なくていい。私だけで行ってくる。」
村の外は、怖いモンスターが出るからダメってお母さんが…。
でも、マリアンネお姉ちゃんは歩き出しちゃったから、なんとなく付いていく。
お、お姉ちゃんがいるなら大丈夫かな…。
村の周りは、3メートルくらいの高い壁で囲われている。
村人は、表門と裏門から出入りしていて、大人たちが交代で門を見張っているから、そう簡単に外には出れない。
マリアンネお姉ちゃんは表門でも裏門でもなく、壁伝いに歩いていた。
どこから村の外に出るのかな。
壁際に草がボウボウ生えている所があって、草を分けると壁に穴が開いているのが見えてきた。
「こ、こんな所に穴が?」
マリアンネお姉ちゃんは、迷わずその穴から村の外に出た。
「ナターシャ、来ないのかい?」
ど、どうしよう。
怖いけど、子供のころから聞いていた聖なる剣も、見たい気もする。
お姉ちゃんは魔法も強いし、朝はあんまりモンスターでないっていうし…。
よし、勇気を出して、穴をくぐろう。
村の外は、埃っぽく、あまり草が生えていない。
普段はもう少し緑が茂っているのだけど、今年は干ばつとやらで、水が少ない年みたい。
雨が少なくて、畑の食物が取れないって大人達が騒いでた。
何はともあれ、前みたいにお腹一杯ご飯が食べたい…。
マリアンネお姉ちゃんは迷わず道をまっすぐ歩いている。
お姉ちゃんが道を知っているみたいだから、大丈夫だよね…。
視界から村が消えると、急に怖くなった。
「マリアンネお姉ちゃん、怖いよ。村に戻ろうよ。」
すると、お姉ちゃんは急に真剣な顔になって、話し始めた。
「ところで、ナターシャ、私には7歳年上の姉がいたのを知っているかい?」
「え!お姉ちゃんがいたの?知らなかった。」
「私も子供だったから、よく覚えていないのだが…。
大人たちが、どうやらひた隠しにしているみたいなんだが、5年に一度、女の子が一人、我が村から居なくなっているような気がするんだ。
ほら、セバスチャンも5年前に行方不明になっただろ?」
「た、たまたまじゃないの?」
「今年がちょうど5年目なんだよ…。今年は誰が行方不明になるかね…。」
「お姉ちゃん、怖がらせないでよ!」
「あはは、私に姉がいて、行方不明になったのは事実だが…、あ、聖なる剣、たぶんあれだろう。」
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