第123話 36.茶色のドロドロ
次の日の朝、言われた通りに気付のお香を焚いた。
スッキリした感じの香りで、呪いのお香とは全く違う香りだ。
これで起きてくれると良いのだが。
エンリコを見ると、まぶたや指がピクピク動き始めた!
「エンリコ!僕がわかるか!」
声をかけたが、目は覚めなかった。
その時ちょうど、テレジアが毎朝のように訪問に来た。
「ベルギウス様。エンリコの調子はどうです?」
「テレジア様!
今、まぶやた指を少し動かすなどの様子が見られました!」
「まぁ、もうすぐで目覚めるのかしら!」
「そうだと良いのですが…。」
そうして、テレジアと二人でエンリコに視線を戻した時…。
エンリコがうっすら目を開けている!
「エンリコ!エンリコ私がわかる!?」
「お、お母さん…。 」
テレジアは安心してその場に泣き崩れた。
僕も危なく泣き崩れるところだった。
よかった、本当に良かった!
すぐに王様とティアナも部屋に駆け込んで来た。
ティアナはベッドでエンリコの手を握って泣き崩れた。
王様は流石に泣き崩れはしなかったが、目に涙を浮かべて、そばで微笑んでいた。
エンリコがベッドからゆっくり体を起こした。
「王様、お母様、ご心配をおかけしました。
ベルギウスのお兄ちゃんが、いっぱい助けてくれました。
僕が寝ている間もずっと側にいてくれました。
ベルギウスのお兄ちゃん!」
エンリコはベッドから僕の方に手を伸ばした。
「おにいちゃん、本当にありがとう。」
「エンリコ、よく頑張った。本当によくやった。
これはお前が選んだ運命だ。
お母さんを大事にして、立派な大人になるんだぞ。」
僕はエンリコの手がしっかりあるのを確認し、そして抱きしめながら言った。
ベッドの反対側でティアナが僕の目を見つめて、笑顔でうなずいていた。
「ありがとう。エンリコが目覚めたから僕はもう大丈夫だ。」
そういう意味を込めて、僕もティアナを見てうなずいた。
◆◆◆
エンリコが元気になったのを確認すると、僕だけ王様の執務室に呼ばれた。
「エンリコを救った解呪の薬だが、作り方を我が国へも教えてはもらえぬだろうか。
その薬で呪いに苦しむ人々を救いたいのだ。
エンリコを救った事も兼ねて、お前には褒美を与えたいと思っている。」
解呪の薬をこの世界の人に教える?
呪われた人にとって、現実世界に戻るのか、異世界にとどまるのか、大きな問題になる。
それをサポートできるのは、両方の世界を知っている僕だけだ。
異世界の人に安易に教えて良いのだろうか。いや、それは違うと思う。
「王様、実は呪いの被害がレオンハルトよりもずっと多いと聞いた時から、思っていたことがあります。
どこまで僕の話を信じてもらえるかわかりませんが、正直に、呪いについて僕が分かっている事をお話ししたいと思います。」
レオンハルトでは、呪いによる被害は年間7人、コルネリアでは100人だ。
呪いの被害はコルネリアの方が多かった。
マルゲリータはあのマルゲリータ邸で、現実世界に絶望を感じ、異世界に来た人たちに、カウンセリングのような事をしながら、現実世界に戻していたのだろう。
僕はそれを、被害の多いコルネリアでやりたいと思った。
そして、その仕事は僕にしかできない。
現実世界のことを知っていて、呪いで消えた人たちの事が記憶に残る僕にしか、この仕事はできない。
それを知ってもらうためには、呪いによって消える人は、違う世界から来ているんだと、王様に説明しなければならないけど…
信じてもらえるだろうか。
僕は正直に、別の世界の人たちが呪いのよって、こちらに来ている事、僕も別の世界から来た人間であることを話した。
「この呪いについては、ディートと情報を共有している。
マルゲリータからの報告も聞いている。」
「で、では僕が別の世界から来たというのも、ご存知という事ですか?」
「無論だ。ただ、それを知っているのは、私とディートだけだろう。」
国民は知らないという事か。だから極秘捜査なのか…。
「では王様。話は早いです。
まだレオンハルト王にも報告していないのですが、僕は解呪の薬をもう一つ開発しました。
今までの薬はこちらの世界には二度と来れなくなってしまう薬でした。
しかし、僕はその逆の薬の開発をしました。」
「つ、つまりそれは、呪われてもこの世界に居続けることができる薬という事か?」
「僕はその薬を飲んでいます。
もう現実世界には戻れないでしょう。
その薬をエンリコ様にも飲ませました。」
「そうだったのか!解呪の薬の開発に成功したのか!
よくやった。本当に素晴らしい。」
「王様。先ほど褒美を頂けるというお話がありました。
どうか僕の願いを聞いていただけないでしょうか。」
「申してみよ。」
「呪われた人は、現実世界に戻るか異世界に留まるかの選択を迫られます。
それをサポートできるのは両方の世界を知っている僕だけです。
レオンハルトよりもコルネリアの方が被害が甚大ですので、この国で呪われた人のサポートをさせていただきたいのです。
また、僕とエンリコ様では解呪の薬を飲んだ後、全く異なった症状がでました。
薬を教えるだけでなく、この薬についてもコルネリアで研究させてください。」
「お前がコルネリアに…?」
呪いが問題になっているのだから、王様は喜んで許してくれるという自信が僕にはあった。
だから申し出た事なのだが、王様は険しい顔をして悩んでいる。
「…………ベルギウス、ありがたい申し出なのだが、お前はこのコルネリアを出て行かねばならぬ。」
「なぜです!王様!僕は多くのエルフを助けたいのです!」
「私も王である前に親なのだよ。
お前がコルネリアに留まるなら、ティアナはお前に会いに行くだろう。
ティアナと会う事は許されない。」
「王様!多くの国民が被害にあっているのになぜです!」
「この呪いの対処療法である薬でなく、根本的な解決方法を見つけるのだ!」
王様が手を挙げ合図を送ると、僕は衛兵に両脇を捕まえられ、そのまま城の外へと放り出されてしまった。
僕はしばらく唖然としてその場でぼーっとしてしまった。
ずいぶん王様に嫌われたものだ…。
そんなにティアナと会うことが許されないのか。
ティアナに会うなというのは僕にとっても苦しいことだが、僕は純粋に呪われた人を助けたかった。
僕もかつては、呪われてこの世界に来た。
そして死にそうになったところを救われた。
それどころか、運良く良い仲間に巡り会えて、自分自身を見直して、現実世界で生きていこうと思ったのだつた。
自分自身の性格や振る舞いについても、かなり反省したものだった。
僕と同じように苦しんでいる人を、助けたい、そいういう気持ちも強かったのだが…。
まぁ、でもコルネリア王の言う事も一理ある。
解呪の薬の研究ではなくて、根本を解決しないといけない。
早くこの呪いの術者を探さなくては。
仕方ない。コルネリア 王の許可が降りなければ、コルネリアでその仕事はできない。
よし、早くヴァルプルギス村に行こう。
しかし、出没するモンスターを確認したところ、僕一人で行くのは難しそうだった。
いったんレオンハルトに戻って、パーティに参加してくれる人を探さなければならない。
気を取り直して、レオンハルト王国にあるマルゲリータ邸にもどるか!
緑の藻や蔦で覆われている美しいコルネリア王国の町並みを歩き、レオンハルト王国に戻ると思っていたのだが…。
緑の町並みは、茶色くドロドロに様変わりしていた。
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