第103話 16.雄株と雌株

 朝起きると、朝ごはんはできていたが、フローマーはいなかった。


 少し心配だけど、僕は黒魔術の講義があるので、マルゲリータ邸を出た。



 今日の黒魔術(中級)の講義は、いつも通りのゲールノート先生で、薬作りの講義だった。


「薬作りというと、みなさん白魔術師が作った薬を思い浮かべる人が多いと思います。


 体力が少なくなった時に飲んだり、風邪をひいたときにも有効です。


 皆さんご存知のように、黒魔術は白魔術の基本でもあります。


 薬作りももちろん黒魔術が基本になります。


「黒魔術でいう薬というのは、その薬を飲むことで呪われたり、または呪いを解除したりするものになります。


 形としては、煎じて飲む物、持ち運びしやすいように錠剤になっているもの、お香として煙を吸うタイプの3種類がほとんどです。


 このクラスでは中級ですので、回復薬を作りましょう。


 白魔術師がいない時に回復してくれる大変便利な薬ですし、作り方も難しくありませんし、今日の授業で、是非習得してください。」


 その時、ティアナが手を挙げ発言した。


「先生!回復薬は黒魔術ではなくて、白魔術ではないのですか?」


「さすが、白魔術が得意なティアナ様ですね。


 その通りです。


 実は回復薬は白魔術の一種です。


 でも、この講義でやるからには、ちょっとした理由があるのです。


 あとで説明しますので、とりあえず、魔術書通りに回復薬を作ってみましょう。」


 僕たち生徒は、魔術書に書いてある薬草を取りに薬草庫に向かった。


 正しく薬草を探せるかという課題なのだろう。


 薬草は似ているものも多いからだ。



 薬草庫はマルゲリータの薬草庫よりも数倍も大きかった。


 さすが国の薬草庫だ。スケールが違う。


 それでも、薬草の名前順に綺麗に並べてあるので、簡単に探すことができた。


「はい、ではみなさんが集めた薬草ですが、確認させてもらいました。


 残念ながら、半分以上の人が、アルゲンの藻を間違って持ってきていますね。」


 アルゲンの藻?僕には見慣れた薬草だった。


 なぜなら、ティファニーの解呪の薬をつくるために、わざわざダンジョンまで行き、採取したものだったからだ。


「魔術書をよく見てくださいね、アルゲンの藻の雄株と書かれています。


 アルゲンの藻は雄株と雌株は形がそっくりなのですが、大きさがまったく違うのです。


 絵だけではなく、注意書きもしっかり読まなければなりませんよ。」


 雄株と雌株が同じ形?ゲールノート先生の説明によると、雄株は5センチほどあるが、雌株は1センチもないとの事だった。

  


 その時、僕は鳥肌が立った。



 ティファニーのために解呪の薬を作ったが(ちなみに僕もその薬を飲んだ)、魔術書に絵が描かれていたので、僕はそれを見て、アルゲンの藻を採取した。

 

 魔術書には、雌株(1センチ)のアルゲンの藻と書いてあったのに、僕は雄株(5センチ)方しか採取しなかった!

 


 解呪の薬を間違って作ってしまったんだ!!!!



「薬作りは、私たちのご先祖様たちが、試行錯誤で作ってきたものです。


 レシピはきちんと守らなければなりません。


 ちなみにこの回復薬でアルゲンの藻を雄株と雌株を間違ってしまうと、回復薬ではなく、増痛薬(痛みを増加させる薬)となり、真逆の性質になってしまいます。」


「先程、ティアナさんが質問してくれましたが、なぜ黒魔術の講義で回復薬を作るかというと、ちょっとした間違い、この場合、雄株と雌株をまちがえるだけで、白魔術(回復薬)から、黒魔術(増痛薬)とまったく違う薬になってしまうという事を、知って欲しかったのでです。」


 雄株と雌株を間違えると、真逆の性質になる?

 

 もしかして、魔術書に書いてあった解呪の薬は、”異世界に戻れなくなる薬”だったから、雄株と雌株を間違ったことにより、”現実世界に戻れなくなる薬”を作ってしまったという事か???


 ティファニーに伝えなければ!!!


 間違っても僕のように好奇心でお香を炊いてはいけないと、伝えなければ!!!

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