第102話 15.フローマーの憂鬱

 君の唇を奪ってもいいよね…。ティアナ…。


 僕は覚悟を決めた。

 僕はティアナとキスをする。



 その時、突然、誰かが僕を横から突き飛ばした。


「少し目を離せば!お前!何やってるんだ!!!!!」


 ミルコだった。


「ティアナ、あんな奴に…。何もされてない?どこか痛いところは無いかい?」


「えぇ、私は大丈夫。」


 ティアナが無事なのを確認するとミルコは僕を睨みつけ罵倒した。


「ベルギウス!!!今度ティアナに指一本でも触れたら、ウンディーネを召喚してお前を粉々に切り刻んでやるからな!」


 そんなに必死になるなら、ティアナを街中で見失うんじゃねーよ。


 と、言ってやろうかと思ったが、とにかく相手にしたく無いので僕は無視した。


 ティアナはミルコに強引に手を引かれて連れていかれる。


「ベルギウス!今夜はありがとう!すごく楽しかった!」


「ティアナ!」


 僕は手を伸ばしたが届かず、二人は去って行ってしまった。


 あと1秒、いや、0.5秒あればティアナの唇に触れることができたのにっ!


 どうしてこのタイミングでやってくるんだ!ミルコ!


 こんなときばかり、ボディーガードの仕事をまっとうするんじゃねー!ちくしょーーーーっ!

 

 腕の中にティアナの感触が残った。ティアナの吐息がかかった頬が熱を帯びていた。

 

 ◆◆◆



 フローマーはもうマルゲリータ邸に帰っているよな。


 マルゲリータ邸に着くと、フローマーの部屋の明かりはついていない。


 いない?もう寝てるのか?


 僕はノックしてフローマーの部屋に入る。


「フローマー?いるよね?入っていい?」


 時計を見ると、夜12時を回っていた。


 フローマーはベッドの上に座っていて、窓の外の景色を見ているようだった。


 窓からは月がまん丸と神々しく光っていた。


 毛布を頭から被ったフローマーは月の方を見ていて、こっちを向いてくれない。


「月を見ていたの?そういえば、今日は3だね。」

 

 この異世界には月が3つあるが、3か月に一度だけ、一番小さい第3の月だけしか見えない日があるのだ。


 今日はちょうどその日だった。


「夜遅くにごめんな。街ではぐれてずいぶん心配したよ。」


「んにゃー…。」


 怒っているというよりかは、悲しい?残念?そんな感情が伝わって来た。


 僕はフローマーを抱きしめようと、側に腰かけたが、フローマーは毛布を被ったままベッドに伏せってしまった。


 一人にしてほしい…、そんな感じだ。


 僕は、毛布の上からフローマーを慰めるようにぽんぽんした。


「フローマー、本当にごめんな。怒らないでくれよ。


 君に怒られたら、僕はどうしていいかわからない。


 この埋め合わせが必ずする。


 また今度、一緒にご飯を食べに行こうな!君の好きなシーフード!」


 フローマーは顔を見せてくれなかった。



 あまりしつこくするのもどうかと思って、僕はフローマーの部屋を出た。


 毛布にくるまったフローマーはいつもより小さく感じた。


 毛のモフモフが毛布で押しつぶされていたからだとは思うけど、それでもいつもよりかは、一回りくらい小さくなっているように感じた。


 サプライズのプレゼント、ちゃんと渡そう。


 少しでも元気になってほしい。

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