第85話27.懺悔 〜僕はいったい何をやっているんだろう。僕の人生は現実世界でも、異世界でも…〜

 僕なら手こずる俊敏なモンスターも、シルヴィオがいれば一瞬だった。


 アルゲンの藻は、シルヴィオがいてくれたおかげで、あっという間に入手した。


 これで解呪の薬は作れる。



 あとはどうやってティファニーに飲ませるかだった。



 いくら僕が説得しても、ティファニーの耳には届かなかった。


 でも、シルヴィオが説得すれば、きっと聞き入れるのだろう。



 ティファニーは最後の最後まで、シルヴィオの事を想っていた。


 僕の事は決して嫌いというわけではなかったけど、男としては見てくれなかった。


 シルヴィオへの気持ちを抱いたまま、死ぬつもりなのだ。



 その時に、どさっとアルゲンの藻を入れていた袋が落ちた。


 おかしいと思い、拾おうとすると、袋が持てない…?



 僕は自分の手が半透明になっている事に気がついた。



 手はすぐに元どおりになったので、慌てて袋を拾い上げた。


 幸いシルヴィオは気がついていないようだった。



 現実世界の僕は、もう長くはない。


 それは異世界にも、もういられない事を意味していた。



 僕の人生っていったい何だったんだろう。



 懺悔したかったのか、謝罪したかったのか、自分でもよくわからない。


 人生の先輩であるシルヴィオに、ただ話をしたかったのかもしれない。


 アルゲンのダンジョンからマルゲリータ邸へ向かう道を歩きながら、僕は話をした。


「僕は名の知れたバスケットプレイヤーで、自分で言うのもなんですが、スーパースターだったんです。


 いつも人が嫌でも寄って来る環境にいました。


 友達も彼女も、少しでも思い通りにならなければ、連絡を断ちました。


 代わりの人はいくらでもいたからです。


 今思うと、本当に嫌なやつでした。


 でも事故で歩けなくなり、人は離れていき、僕はひとりぼっちになりました。


 そんな時に、お香に出会い、こちらの世界に来るようになりました。


 マルゲリータ様には、お香は使うなと、なんども厳しく言われたのですが、落ちぶれたスーパースターを誰も知らないこの世界の方が、何倍も生きやすかったのです。


 僕は忠告を無視してお香を使い続けました。


 その結果、僕は呪われすぎて、現実世界に戻ることができなくなってしまいました。


 ごく稀に、現実世界で目がさめるのですが、母が泣きながら僕の名前を呼んでいました。


 すぐにこちらに戻って来てしまうのですが…。


 そんな母の姿をみると、心苦しくなります。


 シルヴィオ様。


 僕はあなたが羨ましいです。


 僕は現実世界では人を大事にして来ませんでした。


 異世界では、自分の欲のために汚い心で人を陥れたりしました。」


 僕は、自分の欲のために、シルヴィオとティファニーを引き裂いた。


 二人にはひどい事をしたと思う。


 僕の心はなんて汚いんだ。


「あなたは、僕と対照的で、いつも正直で、まっすぐでした。


 お母様やティファニー、周りにいる人を大切にしていました。


 僕に人生をやり直せる機会があるのなら、僕はあなたのように真っ直ぐに、周りの人を大切にして、生きてみたいです。」


「ベルギウス、一体どうしたんだ。急に。照れるじゃないか。」


「シルヴィオ様。僕の正直な気持ちです。


 心の底からのお願いなんです。どうかティファニーを救ってください。」


 僕は、ティファニーが現実世界から来た人間で、今は呪われすぎて危険な状況である事、解呪の薬を飲むつもりが無いことを話した。


 シルヴィオはそれを聞いて、先に行くと言い、ティファニーを説得するために走ってマルゲリータ邸に戻っていった。


 きっと、シルヴィオが説得すればティファニーは解呪の薬を飲むだろう。


 あとは材料を混ぜれば良いだけだし、アガサの時に見ていたから、たぶん大丈夫だ。



 自分の手が短い時間だったけど、半透明になった事を思い出した。


 僕はまだ死ねない。


 ティファニーのために解呪の薬を作ってからでないと死ねない。


 僕もマルゲリータ邸へと急いだ。

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