第67話09. 逃走 〜危険な森へを走って行ってしまったシルヴィオ。夜の森は危険なのに!行ってはダメだ!〜

「うわっ!びっくりした。誰もいないと思っていたで….」


 誰もいないはずのマルゲリータの書斎に、見慣れない人がいて、僕は驚いた。


 その人はスーツを着ていた。


 現実世界と異世界では服装はまるで違っているので、一目で現実世界から来た人だと分かった。


 そして顔をみたら、すぐに誰だか分かった。


 マルゲリータの息子シルヴィオだ。


 マルゲリータの書斎に1辺1メートルのシルビィオの大きな写真が飾ってあるので、嫌でも毎日見ていた顔だった。


 写真では、20歳くらいの写真だったが、実物は写真よりも確実に10歳以上は年上のおっさんだった。


「もしかして、シルヴィオ様じゃないですか!そうですよね!


 シルヴィオ様に間違いありません!」


 現実世界から来た人となると僕を知っている可能性がある。


 もう、顔は変装できないから、せめてもと思って、僕は口調を変えた。


 口調を変えたって無駄なことかとも思うが、とっさに思いついたのが、それくらいしかなかった。


「すみません。俺はそんな名前じゃありません。鈴木です。


 っていうか、どうみても日本人ですよね。俺の顔…」


 あぁ、そうか。異世界に来るのが初めてなんだな。


「なにを仰いますか、この写真を見てください。間違いありませんよ。」


 僕は、書斎に飾ってある写真を指差した。


「あなたのお母様であるマルゲリータ様から、シルヴィオ様のお話はよく伺っていましたので、こうして直接会えるなんて、とても嬉しいです。」


 フローマーはとても良い子だったけど、会話はできなかったので、話ができる人が増えた事は僕にとって嬉しい事だった。


 アガサも亡くなり、遊び相手もいなくなったし。


 シルヴィオはとても驚いているようだった。


「そちらが、我が国レオンハルト王国の大賢者、マルゲリータ様です。」


 隣にある写真についても説明した。

 表情を見るに、激しく驚いている。


 まぁ、仕方ない。


 現実世界しか知らない人にとって、実はあなたの親は賢者だったんですよなんて言われても信じるわけがないか。


 それにしても、目も見開いているし、口もだらしなく開いていて、こ、これが?と言わんばかりに写真を指差している。


 その姿が、間抜けすぎて笑える。


 これはちょっと面白い人が来たかもしれない。


「私の名前はベルギウスと申します。


 マルゲリータ様の一番弟子であり、黒魔術を住み込みで教わっているのです。」


 その口があいたまま、こちらを見た。


 このおっさん、だせぇ…。


 僕もこの世界に来た時、こんな感じだったのか?


 マルゲリータの箒に乗ってすごく驚いた事は認めるけど、多分ここまで酷くはなかったはず…。


 僕が最初にここにきた時にマルゲリータとフローマーが何してくれたっけ?



 家の中の案内と服だったかな?


 特に服装は、この世界では目立つから何か準備してあげないとな。



「ここはマルゲリータ様の家なので、マルゲリータ邸と呼ばれています。


 まずはこの建物の中を案内します。どうぞこちらへ。」



 シルヴィオは言葉は少ないけど、何もかもに驚いていている事は表情を見ていればよくわかる。



 僕が家の間取りを説明していると、フローマーがやってきた。


 マルゲリータ様の息子となればフローマーも嬉しいに違いない。



「あぁ、シルヴィオ様、こちらこのマルゲリータ邸の仕事をメインでしてくれているフローマーです。


 フローマー、マルゲリータ様のご子息のシルヴィオ様だよ。」


 フローマーは嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らしていたが、シルヴィオの画面は蒼白だった。


 どうやらフローマーをライオンのような猛獣と思っているらしく、恐怖で顔が引きつっていた。


 大丈夫ですよと言おうと思ったが、シルヴィオは走り出してしまった。


 一目散にドアに向かって走り、森の方に行ってしまった。


 もう日が暮れる。

 夜になれば森にはモンスターが出る。


 危険だ!


 早く連れ戻さないと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る