第19話 幸せの時間
マルゲリータ邸に戻ってきた。
現実世界で葬式をあげたせいか、少し落ち着きを取り戻した。
母はもう帰ってこない。
俺は、前を向いて生きていかなければならない。
落ち着くと、周りが見えてきた。
フローマーに、情けないほどお世話になっていた。
ご飯を作ってくれて、俺が食べなくても優しく、何も言わず、ただ寄り添っていてくれた。
こんな時、フローマーのモフモフは最強の癒しだった。
ベルギウスも心配してくれて、時々、声をかけてくれていた。
俺は、ぼーっとしていたので、答えられなかったが、無視した形になってしまっている。
申し訳ないことをしたと思う。
それから、なぜか、ティファニーが家にいたように思う。
部屋を出て、リビングに行くと、みんなが歓迎してくれた。
「シルヴィオ!」
「シルヴィオ様!」
「ニャー!」
「みんな、いままでごめんな。
俺、すごくみんなに迷惑かけたと思う。
でも、これから前を向いていかなきゃなって、気がついたんだ。」
そう言うと、みんなが同時に寄ってきて、俺を抱きしめた。
彼らは大切な仲間だ。
彼らと出会えて、俺は本当に良かったと思う。
ベルギウスの話によると、ティファニーは俺のことが心配で、元気になるまではこのマルゲリータ邸にとどまりたいと、ティファニー自身が強く希望したんだそうだ。
俺はだいぶ元気になったが、ティファニーにはコルネリア王国に帰らず、俺のそばにいてほしいと思う。
俺がふさぎこんでいる間、ティファニーが気分転換に森へ散歩に行こうと、誘ってくれたことを思い出した。
その時は、頭の中が真っ白だったので、何も言えなかったが、罪滅ぼしと思い、天気も良かったので、ティファニーを森へ誘った。
「私の国はね、レオンハルト王国よりも、もっとずっと緑に覆われているの。
レオンハルトは人の住むところには、あまり緑がないでしょ。
だから、こうして森を歩くと、とても清々しい気持ちになるの。
私、緑って大好き。
あ、でも決して、レオンハルトが嫌いって意味じゃないの。
文化の違いってやつよね。」
ティファニーは楽しそうに話していた。
「レオンハルトの森はね、私たちの森と少し植物形態がちがうのよ。見てこれ!」
ティファニーは真っ白なバラのような花を摘んできた。
「この花は、コルネリアの森では見た事ないの。とても甘い香りがするでしょ。
この香り、香水にできないかしら。」
さすが、薬草づくりが得意な種属、植物への興味は大きいらしい。
俺はその白い花を受け取り、自分の服についていた装飾用の紐をほどき、花に結びつけた。
そして、ティファニーの髪に飾りのようにつけてあげた。
ティファニーはすごく喜んだ。
森は木が生い茂っていて、昼だと言うのに、それほど明るくなかった。
ただ、木々の間から木漏れ日が差し込み、ふつうに歩ける程度に、道を照らしていた。
雨が降った後だったため、空気が爽やかで気持ちが良かった。
しばらく歩くと、森の真ん中に木が生い茂ってないところが、ぽつんと現れた。
最初にティファーに出会った池だった。
あの時のティファニーはクマ型モンスターに襲われて、瀕死の状態だったが、あれが運命の出会いだったんだと、今は思う。
池は日の光を浴び、キラキラ輝いていた。
そしてその周りには色とりどりの花が咲いていた。
「わぁ!キレイ!みてみてシルヴィオ!」
ティファニーは花畑の中に駆け出した。
「わぁ!キレイ!素敵だね!いい香り!」
そして俺の胸に飛び込んで言った。
「ねぇ、あっちのほうに美味しそうなベリーがなっているの。一緒に行こう!」
ラズベリーのような真っ赤な木の実の前に来て、目を輝かせている。
甘いものがどうやら好きなようだった。
俺はティファニーの熱いまなざしを感じ、先に味見してみろっていうことなんだろうなと察した。
「あ、甘くて美味しい。」
「本当?!」
ティファニーも一つ口の中に入れた。するとみるみるか変な顔になって、
「すっぱぁい。」
「あはは、当たり外れがあるみたいだね。」
こんなふつうのやりとりが、俺にとっては幸せでたまらなかった。
「俺、ティファニーの事が好きだ。」
自分でも不思議だが、自然に出た言葉だった。
今日、告白しようなんて思ってもいなかった。
ただ、その時の思いが、そのまま口に出てしまった。
その勢いで、俺は言った。
今、言わないと一生後悔する。
「俺と付き合わないか。このままマルゲリータ邸で、俺と過ごさないか。」
マルゲリータ邸への帰り道、俺たちは時々見つめ合いながらは笑って、手をしっかり繋いで帰った。
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