囚われの身

 王国内のいかなる人間も魔物を殺してはならない、という新たな言葉。それ以前のそのまた前の王ならばきっと止めていたけれども、今における見えざる王の「言葉の力」によってすすめられた。魔物を殺すというのはギルドを介して無くなることが無いし恐らくこの先も存続するだろう、だがこの組織があることによって一般の人間が手間をかける事なく殺すことがなくなった。つまりはそれを行う手段が単に面倒になったという訳だ。


 そんな面倒くさいことをせずとも、王国はその気になれば人間を焚きつける事が出来て魔物を虐殺する事ができるし、魔物をひっそりと殺した事を今の見聞者にあらぬことをぺちゃくちゃ喋られることを考えてみれば、憧れの勇者とその他諸々が活躍する組織の当たり前の仕事と言い張れば良いだけの事だった。


 魔物に身内を殺された、だから自身は勇者となった。といった事は全然なくとも、憧れで入ったところが人に関する依頼でドンドン増えていったからだ。その依頼に関する存在を殺す以外にも他にやる事はあるが、自分たちの属するギルドの裏である・ゴルド・というのは、ギルド内の様々な技能を持った人間から少数精鋭によってなるパーティーやソロで組織され、重要な人物を救出したり殺したりをできる・おおよそ表では語られることのない・事をできる人間達だ。


 普通の勇者のパーティーが戦って魔物の体液にまみれて様々な困難を乗り越えて成果をあげる。その魔物の体液が人間の血に変わっていて成果をあげている、違うのは人には決して喜ばれない事であり同じ事をやって飯を食べている人間達に・血濡れの幽霊・と疎まれるというおまけ付きというわけだ。


 気を失わされて、天井が鉄の格子扉の地下牢の中に投獄されて依頼される時を待っている中、何度も何度も自分が今まで・救ってきた姫・の事を考えていた。


 事情を察して泣き喚くもの、すでに自殺して見るにたえない形相をしていたもの、全てを受け入れて戻ったもの、色々で様々だった。それらの事や血塗られた手がもう嫌になった理由で農民になったが、それは既にどこかで筒抜けであったということになる。


「どこへ逃げても同じか」


 ジャラリとも鳴らない手と足の枷の間に繋がれている短い鎖、そしてその先には大きな岩に繋げられている。


 格子の隙間から松明の暖かな光が差し込んでいた、その光が急に遮られて暗くなったかと思えば上の格子戸が開かれると同時に梯子が降ろされ、ギシリギシリと音を立てながら騎士が降りてきた。


「お前が勇者か」


「えぇ、ご想像の通りの勇者でしょうか?」


この騎士の男、元は戦士だった男でギルドから王国の騎士へと身を立てた男であり、かつて自分とパーティーの仲間として組んだことのある人物だった。


「とぼけるな、お前が何をしていたかなど既に分かっているぞ、血濡れの亡霊め」


「脅し気を失わせてまで血なまぐさい臭いのする者を、そしてわざわざここに連れてきたのはよほどでもない事だとは思いますが」


「黙れ!」


 スラリと抜いた剣を右頬に刃をヒタリと当て勢いよく引いた、ズィッと鋭く熱くなったところからボタリボタリと血が流れ、右の肩から横腹、そして太ももに赤く細い川が流れる。


「これ以上血生臭くしては……空気が良くない所がまた一段と良くならなくなるのでは?」


「減らず口を……!」


 血に濡れている剣を振り下ろす、と思っていたが剣が手から離れ、ゆっくりとその後を追うようにドサリと倒れた。その後ろには倒れた騎士より一段と鎧に装飾を施した騎士が鞘に納めたままの剣を持ちながらこちらへと近づいた。


「枷を外す、すこし待て」


 しゃがみこみながら枷を外される中、自分の右手には既に血塗られた剣を持っていた、だがその人物を殺そうか殺さないかを迷っているうちに枷は外されて、剣も握られた手からゆっくりと離された。


「このような乱暴な形で申し訳ない、だが事は急を要する故、こうするしかなかった」


「……」


「右頬の怪我と共に部下の無礼も許してやってはくれないか……勇者どの」


「こういう形には慣れている、気を使うほどでもない」


「……なぜ私を殺さなかった」


「殺しても殺しても……飽きるほど殺しても……そんな夢ばかりがとうとう終わることもなく、忌み嫌われる死神となった次第でございます。私の中の死神が そうしろ と」


 互いが立ち上がる


 火の光と陰の中、両者は互いを見ていた、闇に活躍する者と光に活躍する者、同じ言葉は話せても理解しあえないものと感じながら。


「ーー釈放!!!!」


 振り向きながら騎士が叫ぶ、遠くでガラガラと大きな音がしたと同時に無言で梯子をのぼる、横たわった騎士を横目に見ながら、その後を追うように影から抜け出して光を受けながら、梯子をゆっくりと登った。

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