合唱サークルのイベント(後編)

わたしがボロボロ泣いていたので、サークル仲間のNさんが、

「どうしたん? 感激したん?」

 と笑っていました。ほっといてよと思ったけれど、先生は満足そうに、

「やってよかったでしょ?」

イベントが終わった翌日サークル活動がありました。イベントにはアンケートが実施されていて、感想が書かれていました。


「楽しかった」

「おんちの私も思いっきり歌えた、これでじごくへ行っても悔いなし」

「こんな企画をまたやってほしい」


 などなど、好意的なものが多かったようです。公民館の役人たちが編集したので、批評とか批判とかは見せてもらってませんでした。むしろ、そっちのほうが大切だと思うんですがねえ。


 イベントの評価で、いちばん面白かったのが、公民館の役人たちの反応でした。

 わたしの持っている楽器(ギロ)を見て、きゃぴきゃぴと、

「すごくリズミカルに演奏してるんですね」

「その楽器って、どこの楽器?」

「だれのもの?」

 いろいろ疑問をぶつけたり、わたしが特によかったと褒めちぎってくれるんですね。


 ギロは、南米の楽器だったと思った。

 会で購入したけれど、湿気て音が悪くなってます。

 褒めてくれてありがとう。

 と、答えました。


 褒められて、悪い気はしない。

 でも、若い子が入ってこないのは残念。

 このままでは、サークルが終わるまで、わたしがいちばん若いことになりそうだ。


 サークルの会長さんが、

「舞台衣装を着てよかった。気分があらたまった」

 とまんぞくげ。普段着じゃない自分を演出できたことが、よかったらしい。

 そして、感想欄の記事を眺めつつ、

「これでじごくへ行けるってなに」

 と吹き出したり、

「今までで一番よかった? 公民館でシニア向けにミニミニコンサートをするのは、はじめてだよね?」

 と確認したり。

 わたしが、

「今までというのは、公民館がやっていた、『ゆうゆうカレッジ』 シリーズのことじゃない? あの企画の第七弾がうちらのイベントだったから、そのことを言ってるんじゃないかしら」

 と推理して言ってみましたところ、

「なーるほど~」

 と感心されちゃった☆


 そんなことを言っている間に、次のイベントの話題になっていきます。

「こんど、被爆ピアノといっしょに歌うイベントが4月14日にあるから、参加するよ。歌う曲は、今やってる 『食いしんぼうの世界旅行』 をそのまま使う。リハーサルみたいな形になるかもねえ」

 と先生が言います。練習途中のものを発表するのはどうなんだろう。それに、被爆ピアノと『食いしんぼうの世界旅行』じゃ、イマイチ傾向が違う気がしてならないんだが。


この話を持ってきたのが、わたしの後輩でご近所のNさん。

 彼女の言うには、


「この話は、まえの会社の知り合いが誘ってきてくれたんです。前の会社の知り合いは、顔が広くって」

 ということでした。

会社は選ばないと、その後の人生の豊かさにも関与するようですな。


  そうそう、忘れてました。

 被爆ピアノとは、広島に原爆が落とされたときに被爆したピアノのことです。音がズレまくっていたのを調律したり、壊れた鍵盤をなおしたりして、いまだに演奏会に使うシーンがあるのです。復興のシンボルね。

 

 あの組曲が、死者の慰霊になるのかな。外国の食事とお酒を食べ歩く歌なんだよ? 被爆で苦しんで死んだひとたち、聞いてどう思うんだろう。

広島にとって原爆が生活の一部なのだから、まあ、いいのだろう、きっと。

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