外伝第31話 世界線A




 寅部冬馬は長い夢を見ていた。


 彼は夢の中で見知らぬ世界をいくつも渡り歩いた。

 その中で彼は恐ろしい悪夢と出会った。

 やがて全ての世界を飲み込んでしまう悪夢を前にした彼は、世界を救う旅に出た。


 世界を滅ぼしてしまった少女と出会った。

 世界に退屈した悪魔達の王と出会った。

 世界に絶望した未来を視る占い師と出会った。


 彼ら彼女らを仲間にして、冬馬は悪夢と戦った。


 そんな中、凍える様な寒い大地で彼は更に多くの人々と出会った。

 様々な祝福を受けた物語に出てくるような英雄と友となった。

 図々しく粗雑ながらも心優しく力強い、そして美しい巫女と出会った。

 小さく気難しいものの頼りになる魔法使いの少女と出会った。

 何を考えているのか分からないが、実は気が利く武闘家と出会った。

 

 数々の出会いがった。沢山の力を借りた。

 そして、冬馬はついに悪夢に打ち勝った。




 冬馬は目を覚ます。そこはいつもと変わらぬ自宅だった。

 寝て起きただけにも関わらず、不思議な夢はまるで何十年もの期間に思えて、それなのに妙に鮮明に思い出せた。


 冬馬はふと、両親が恋しくなった。


 冬馬は両親の顔を見に行った。





 しょっちゅう見ている筈の両親の顔は、妙に懐かしく思えて、冬馬は何故か泣いてしまった。

 どうして泣いているのかと両親には笑われてしまった。

 それを恥ずかしく思いながらも、そうやって言葉を交わして笑い会える事を冬馬は幸せに思った。


 寅部冬馬は長い夢を見ていた。

 夢から覚めればいつも通りの日常が待っている。

 長い夢を少しだけ恋しく思いつつも、彼の日常は今まで通りに流れていく。

 変わらない筈の日常を、前よりも少しだけ愛おしく思いながら、冬馬はこの世界を生きていく。



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