第73話 ドキドキ?勇者女子会(後編)
ひょんな事から集まった勇者女子三名が余暇を過ごす。
まず入った服飾店で、アキはハルに色々と服を試着させていた。
ガーリーなもの、ボーイッシュなもの、その他色々幅広く着せ替え人形のようにあれこれ着させていく中でアキは溜め息をついた。
されるがままのハルは溜め息を聞いてびくりとする。
「そ、そんなに似合わないか……?」
「……いえ。何でも似合います。」
色々なものを着せてみて、アキは気付いた。
ハルは素材が良いのでジャンル問わず何でも基本的に着こなしてしまう。
どうとでも化ける魔法の原石を前にして、アキは悔しげに渋い顔をした。
「なんか負けた気分です……。」
「な、何に負けたんだ……?」
アキも色々と服は試すのだが、小さい身長と幼い顔のせいでかなり似合う範囲は限られるのである。アキが着るとちんちくりんになる憧れの大人っぽい服を華麗に着こなすハルを見て、悔しいやら羨ましいやらで何とも言えない気分になった。
「何着か買っていきましょう。勿体ないですよ色々と似合うのに。普段防具だのばっかりじゃないですか。」
「いや、普段そんなに着ないし……。それに悪いって。」
「大丈夫って言ってるじゃないですか。それと普段からもっと身なりに気を遣った方がいいですよ。ハルも女の子なんですから。今の服にしたって女神様?から借りっぱなしにもできないでしょう?」
「うー……。」
乗り気ではなさそうだったものの、女神様を引き合いに出したら遠慮する言葉は引っ込んだ。ハルも女神様に色々とおんぶに抱っこされている事を気にはしているらしい。
「あれこれ私が着せてますけど、ハルは自分で欲しい服とかないんですか?」
「……うーん。私は動きやすければ何でもいいかな……。」
「そんな少年みたいな事を……宝の持ち腐れですよ。」
「宝……?」
「自覚がないのが小憎たらしいですね。まぁ、好きなの色々と見て回って下さい。」
そう言うとアキはもう一つの試着室の方に向かう。
先に店内を見て回っていたうららが既に入っている試着室である。
アキはそこに向かって声をかけた。
「うららさんはどうです?」
「ちょっとみて貰ってもいいですか?」
返事が返ってきてカーテンが開く。
姿を現したうららを見て、アキは素直な感想を述べた。
「……なんかおばあちゃんみたいですね。」
「おばあちゃん!?」
渋い色味にダボッとした緩さ、田舎のお婆ちゃんが着ていそうな装いを見たアキが思わず唸った。
そして、もう一つ気になった点に触れる。
「首の縄は外さないんですか?」
「おばあちゃん……。」
「そ、そんなにへこむ事ですか……? ご、ごめんなさい……。」
何をそんなに気にするのかと思ったが、質問が耳に入っていないレベルでへこんでいるので思わずアキが謝った。そこでようやく我に返ったうららがハッとして誤魔化し笑いをしつつ顔を上げる。
「え、えーっと。縄、縄ですね。縄は外せないんですよねぇ。これは趣味とかファッションの話じゃなく、これが呪いの装備だからでして。」
「そうなんですか。
「いえ。ちょっと厄介なものでして。外すと下手したら私が死ぬというか。」
「そ、そうなんですか?」
うららの首に巻いた縄"束縛の縄"。物質概念問わず縛りを課す呪いの装備。
アキもその能力については聞いていたが、外すと死ぬという話は初耳であった。
うららは"束縛の縄"で自身の"死"、"加齢"等々、様々な概念を"縛"っている。解除した時点でそれらは解放され、今まで無理矢理誤魔化し蓄積してきたものが一気に降りかかる。その時にどうなるか分からないが、マズイ事になるのはうららは直感しており、この呪いの装備は外せなくなっているのである。
「でも、縄が一番悪目立ちしてるんですよね。マフラーとか首輪とかつけます?」
「え? 私に犬の首輪を? そういうプレイがお好きなんですか?」
「いや、犬のとは言ってないじゃないですか。」
「あら、ごめんなさい。つい癖で。」
「どんな癖ですか。」
うららはドMなのである。ノリでいつもそっち方面に話を持って行きがちだが、真面目に返されると流石に控える。
「うーん。私やっぱり若い子のファッションに疎いんですよね。首の縄を隠す物もそうですけど、良い感じの服をアキちゃんの方で見繕って貰ってもよろしいですか?」
「私も別に詳しくはないんですけど。……まぁ、いいですけど。」
「その『こいつに任せるよりは…』みたいな目はやめてくださいね?」
そんなこんなでうららの服もアキが見ることになり、しばらく最初に入った服飾店で三人は過ごす事になった。
気に入った服を購入し、うららに関しては店ですぐに着用して、勇者女子三人は店を出る。
「これちょっと子供っぽすぎませんかね?」
「何言ってるんですか。子供でしょ。」
女児向けの可愛らしい服に身を包み、マフラーに顔を埋めてうららが照れ臭そうに呟けば、アキはぴしゃりと切り捨てた。
うららは元より見た目は少女なのだが、服で余計にそう見えるようになった。しかし、本当は"加齢"を縛っている上に、前世の記憶もあるので精神的には完全に大人なので、少女っぽすぎるとそれはそれで恥ずかしく思ううらら。
「若く見られる分には良いと思いますけど、流石にこれは若すぎるというか……。」
「そんなおばさんみたいな事言う歳なんですか?」
「……。」
「ご、ごめんなさい。」
うららに年齢弄りは基本的にアウトらしい。
アキはあまりにも目が怖かったので思わず謝る。
「似合ってますし大丈夫ですよ。ね、ハル?」
「ん? ああ。似合ってると思う。」
ハルはこくりと頷いた。
ハルはというと、いくつかの紙袋をぶら下げ、帽子だけを被っている。
帽子はちょっと今の格好が恥ずかしいというハルの意見を聞き、アキが合わせて購入したものである。顔を多少隠せれば気にならないのでは、という事で早速被ったのだが、効果はあったらしくハルは先程よりかは緊張が抜けていた。
「それにしても、良かったのか? 結構な値段したんじゃ……?」
「良いんです。大して高額な店でもないですし、私普段は出費しないのでたまにはいいんですよ。」
結局あの店での代金はアキが持った。ハルとうららは最後まで遠慮がちだったものの、アキの勢いに押し切られた形である。
実際のところ、アキは裕福な家の娘でありつつ、本人も勇者としても魔法使いとしても優秀な事もあり結構稼ぎがいい。普段娯楽に多額を費やすような事もないので、この程度の出費は大した痛手でもないのである。
「いつまでも遠慮するより、素直に喜んで貰った方が私としては嬉しいんですけどね。」
「そ、そうか。ごめん。ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。じゃあ、次はうららさんの礼服見に行きましょうか。」
アキに先導されて、ハルとうららも後に続く。
ハルが帽子を被って顔が見えづらくなった事、うららのボロ服と首の縄が隠れた事で周囲から集まっていた視線も多少減った。視線が減った事もハルの緊張を和らげる事に繋がったらしく、次第に縮こまるようになっていた姿勢もピンと普段の様子に戻り、足取りも軽くなっていく。
続いて、アキの案内でうららの服を仕立ててくれる店に入り、礼服を仕立てて貰う。
そこまで終われば、今日の必要な用事は終了である。
そこそこの時間が掛かって店を出れば、うららが申し訳無さそうに頭を下げた。
「ごめんなさいね。お二人のお休みに手間を取らせてしまって。とっても助かりました。ありがとうございます。」
「いえいえ。元々大して予定も決めてませんでしたし。」
「私も別に気にしてないぞ。」
うららの用事は済んだ。これでうららは去ろうとしたのだが。
「もし、迷惑でなければこの後ご飯も一緒にどうですか?」
アキから思わぬ誘いが掛かる。
「迷惑だなんて事はないのですが……お二人で遊ぶ約束してたのでしょう?」
「いえ。別に二人だけでどうとかいう話ではなかったので。ですよね、ハル?」
「ああ。うららは雪女の時にアキの手助けをしてくれた子だろ? 別に一緒で嫌だなんて事はないぞ。」
「あら。覚えていて下さったのね。少し顔を合わせただけなのに。」
以前にアキが雪女討伐の依頼を受けた際に、たまたま事件に巻き込まれ、そのままの流れでアキに協力をしたのがうららである。
あの事件の後、少しだけ顔を合わせてはいたのだが、殆ど交流はなかったのにも関わらずハルは覚えていたらしい。
二人から問題ないとまで言われたなら、とうららはうふふと笑った。
「なら、ご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」
三人はそのまま揃って食事に行く事になった。
勇者女子三人、食事を取りながら他愛のない話に花を咲かせる。
「―――で、結局お見合いをすることになってしまって。」
「へぇ、アキも結構大変なんだな。」
「縁遠い話過ぎますねぇ。」
アキが親にお見合いを組まれた話の愚痴に、ハルとうららが興味深そうに相槌を打つ。
「相手はそんなに嫌な奴なのか?」
「いえ。別に何が悪いという訳ではないんですけどね。まだ私には早すぎるというか……。」
「お気持ちは分かります。そういうのって、いざ向かい合うと早すぎたかなぁと思うものですよね。でも、必死になると遅すぎたかなぁと思ったりと後悔の絶えないもので……。」
「うららはそういう、恋愛とか結婚とかに詳しいのか?」
訳知り顔で語るうららに興味深そうにハルが尋ねれば、うららは頬に手を当て「はぁ」と溜め息をつく。
「私の場合は早すぎたなぁ、とか、もっと良い相手が居たかなぁ、とよく後悔をしたものです。まぁ、生涯の伴侶としてこの上ない人だなぁ、と思った事もあったんですが。結局は時々の気分なんですよね、こういうのって。」
「うららさんは一体どういう人生送ってきたんですか……?」
「……あっ! 違う違う! 今のナシです! 妄想の話ですので!」
うっかり前世の記憶を振り返ってしまい、慌ててうららは訂正する。
前世がある事や実年齢は秘密なのである。
咄嗟に話をすり替えようと、今度はハルの方を見てパスを回す。
「ところで、ハルさんはそういうお話ないんですか? とてもお綺麗ですし、引く手あまたなのでは?」
「き、綺麗とか、そんな……。」
「そんな謙遜しなくても。アキちゃんもお綺麗だと思いますよね?」
「なんでそこで私に振るんですか。…………いや、まぁ綺麗だと思いますけども。」
「ふ、二人してからかわないでくれっ! そんな事言われた事全然ないぞ!」
えぇ?と怪訝な顔でアキとうららがハルの顔を見る。
そこでアキはふと思い出した。
以前に勇者ナツとうらら含む知り合いが話しているのを盗み聞きした時の事。
ナツはハルを綺麗だと言っていた。知り合いの男も綺麗だと言っていた。
それを思い出した上で、アキは言う。
「それ、ハルが気付いてないだけですよ。」
「そ、そんな事ないぞ。私は地獄耳だからな。言われてたら気付くぞ。」
「いや。本当ですって。ね、うららさん?」
「私もハルさんが気付いてないだけだと思いますよ。」
「なんで二人で息ピッタリなんだ……。」
二人にぐいと前のめりに否定されて、ハルも気後れする。
「慣れてないからやめてくれ……恥ずかしい……。アキもうららも女神様みたいな事言うんだな……。」
「女神様にも言われてるんじゃないですか。」
急に出てきた女神様というワードにうららが怪訝な顔をする。
「女神様って何の話です?」
「ハルは知り合いの女神様が居るらしいですよ。今日の服とかもその女神様に見立てて貰ったとかで。私も良くは知らないんですけど。」
「そうなんですか。」
特に変な事を言っていると疑うこと無く、うららはすんなりと納得した。
彼女自身、女神ヒトトセの導きでこの世界に転生したので、女神というものの存在は知っている。同じ女神なのか?と気にはなったものの、特に深掘りはしなかった。
代わりに、アキが興味を持ったようで女神についての話を続ける。
「その女神様って私とかでもお会いできるんですか?」
「多分誰でも会えると思うけど。今度紹介しよ……いや、やめた方がいいか?」
「え? なんで急に日和るんですか?」
「…………アキはアイドルとかに興味あるか?」
「何で急にアイドルの話になるんですか。」
「歌って踊るアイドルになりたいと思った事はあるか?」
「そんな事考えたこともありませんよ。何で急にそんな質問を?」
「だったら会わない方がいい……。」
「女神様とアイドルに一体何の関係が……?」
「女神様に会ったらアイドルにされる……。」
「ちょっと何言ってるのか分からないんですけど。」
頓珍漢な話を聞いて、アキが真顔になる。端から聞いているうららも訳が分からないといった様子である。
そんな調子で互いの身の回りの事や互いに気になった事に話題を振りながら、勇者女子三人は会話を弾ませる。
他愛ない話に興じている中で、ふとハルがくすりと笑みを零した。
「急に笑ってどうしたんですか?」
「いや。女の子同士でこういう事話したりしたことなかったから楽しいなって。村では同い年の女の子とかいなかったし。」
ハルはそう言うと、アキの目を見てにかっと笑った。
「今日は誘ってくれてありがとう。」
眩い笑顔にアキは思わずドキッとする。
その笑顔を見たアキは、勝手に何かに納得した。
(女の私でもドキッとするなら、彼らがああも誉めちぎるのも納得です。)
気恥ずかしそうに視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻いた後、アキは口を尖らせて言葉を返す。
「わ、私も楽しかったです。」
二人の様子を見て、うららが微笑ましそうに頬を緩める。
「仲が宜しいことで。」
かつては犬猿の仲だった勇者女子二人。
いつの間にやらすっかり打ち解け、遊びにいくまでになっていた。
うららに茶化されてもかつてのようにムキになって否定する事もなく、二人は気恥ずかしそうに笑ってみせた。
この後も勇者女子達は穏やかで温かい時間を満喫した。
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