第三十話 釣り針戦術

 5限目が終了し、休み時間の間に辻からの連絡があった。どうやらポイントアルファで話し合いが行われることとなった。ポイントアルファは学校から一番近いため利便性に優れているからであろう。俊や山下にとっても土地鑑のある場所であり好都合だ。俊が呼び出されたときと同じように、撮影用のビデオカメラ、監視用のサーマルスコープ、偽装網を持っていく。今回は俊が撮影と監視を行い、山下が周辺警戒を行うこととした。

 6限目が終わり放課後を迎えると、俊は一目散に教室を出ていく。辻がその様子を眺めてから自席を立ち教室を出る。山下はゆっくりといつも通りに帰り支度をして教室を後にした。

 (あいつ、どうするつもりなんだろ?)

 辻は俊の後をつけていた。俊が向かっている方向は石光と小島が話し合う場所と思われるが、その道中、目的地とは反対方向となる住宅地へ入っていく。

 (え?どういうこと?)

 辻は疑問を抱きながら俊の後をつける。住宅地に入っていくと、俊はさらに左折する。辻が急いで追いかけると、十字路をまた左折した。辻が急いで十字路を曲がろうする。

 「なんか用か?」

 曲がった先に俊が待ち伏せていた。辻は驚いてその場にしゃがみこんでしまう。

 「びっくりさせて悪かった。ほら立って」

 しゃがみこんでいる辻の肩に優しく手を載せると、辻は恐る恐るゆっくりと顔を上げた。ゆっくりと立ち上がったところで俊が問いただす。

 「で、なんでつけてたわけ?」

 「だって、真紀と碧が気になるから……」

 「それは答えになってないんじゃないかな?」

 といって俊は懐から携帯電話を取り出して操作を始めた。そして画面を辻に見せる。

 「全世界配信しちゃう?これ」

 携帯電話の液晶画面には、辻が本屋で窃盗をしているところ場面が映し出されていた。容赦ない俊の行動に辻はたじろぐ。

 「小島と石光が気になるなら、俺の後をつけずにそのまま話し合いの場所まで行けば済む話だ。もう一度言うぞ?何故、俺をつけた?」

 辻は俯いて小さい声を絞り出して答える。

 「驚かそうと思って……」

 「本当だな?だが、その発想は、俺に一泡吹かせてやろうという反抗精神だ。驚かすだけではなく、あわよくば弱みを握ってやろうという魂胆が滲みでてるな。今回は許してやる。次はないからな!?」

 俊が強い口調で辻に言い放つと、辻は目を潤ませながら口をへの字にすると、踵返して走っていった。

 「山下、連絡ありがとう」

 『いえいえ。それにしても容赦ないね、女子相手に』

 「男女平等」

 『あっはっは』

 俊は山下とすぐ連絡が取れるよう骨伝導イヤーマイクを携帯電話に取り付けていた。ハンズフリーのため通話しているように見えず、辻にも気づかれなかったので、待ち伏せに成功した。

 「こんな様なんで、合流には少し遅れる」

 『了解。今のところ目視ではアンブッシュは見掛けないね』

 「了解した。急いでそちらに向かう」

 俊は駆け足で山下との集合場所へ向かった。


 ポイントアルファに到着した俊は、草木の茂みに姿が隠れるよう姿勢を低くし、石光と小島の話し合いが良く見渡せる場所、つまりは山下との待ち合わせ場所に向かった。

 「小野寺君、おつかれ」

 「待たせたな」

 俊は伝説の傭兵のようなセリフを吐くと、バックパックから機材を取り出した。三脚を組み立てビデオカメラをマウントし、偽装網を掛ける。サーマルスコープを山下に渡すと、山下はスコープを起動させ周囲をスキャンし始める。

 「サーマルで見ても、アンブッシュはなさそう」

 「了解した。スニークフードだ、被っておけ」

 俊が頭から肩のラインを隠す偽装網(スニークフード)を手渡すと、山下は手慣れた様子で被った。俊もスニークフードを被って景色に溶け込んだ。腕時計を確認すると、石光と小島が話し合いをする時間の20分前であった。

 「なんとか間に合ったな、さて石光は小島を説得できるかな?」

 「小野寺君、結構のん気だね?」

 「そうだな。正直言ってしまえば、最低条件はすでにクリアしている。小島の柿崎へのイジメを阻止することと、石光のトラウマによる自殺の阻止だ。自殺されると学校生活が面倒になるからな。一番楽だったルートは小島が不登校になることだったが、そんなタマじゃなかったな。内ゲバまがいのことをして……おかげで石光のフォローという仕事が増えてしまった」

 俊が肩をすくめてため息をつくと、山下は、ははは……と乾いた笑いを発した。

 「この話し合いの結果、石光が登校拒否になろうと、小島と全面戦争を始めようと俺の利害になんら影響はない。正直いってしまえば、小島が俺の利害関係にちょっかいを出さなければスルーしていた」

 「小野寺君の割り切り方、すごい……」

 山下があっけにとられていると、俊と山下がいる位置の後方からガサガサと草木が揺れる音がした。

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