第二十九話 決心

 話していくうちに石光の血色も良くなってきており、辻の顔もほころび始めたところで石光が質問する。

 「この封筒の差出人ってさ、小野寺君だよね?」

 石光の質問に対し、辻は笑顔のまま固まった。

 「だって、今の状況になったのって小野寺君が動いてからだよね?状況証拠だから確証はないけど」

 「違うよ」

 辻は笑顔で固まった状態のまま、石光の問いに答えた。

 「咲良、さっき絶対いわないっていってたっけ。じゃあ、自分で調べるしかないかな……」

 辻はあわあわしながら、石光を止めにかかる。

 「とにかく!差出人はどうしようもない奴だから詮索しないほうがいい!絶対!駄目だよ!」

 そんな辻の忠告に聞く耳を持たず、石光は感嘆する。

 「すごいね、小野寺君は。私が出来ないことをやってのけた。そのためなら自分がなんと言われようが構わないと思っているのもすごい。でも、それぐらいの覚悟がないと出来ないんだろうね……」

 辻は頭を抱えてかぶりを振ってからうなだれる。

 「……もう、詮索するなって忠告したからね」

 「こりゃ、不登校なんてしてらんないね」

 石光は腕を組み、感慨深く首を縦に何度か振る。メンタルは復調しているように見える。

 その後、辻と石光は会っている事を悟られないように、時間差を設けて教室へ帰った。一部始終を草葉の陰から見ていた俊は山下に監視を終了する意を伝え、教室に戻ることにした。

 (……石光真紀、あれは強い奴だ。間違いない、気を付けなければ)


石光は教室に戻ると、そのまま小島の元に向かった。

 「碧、放課後、話がある。私が指定する場所で話すのが嫌だったら場所はそちらで決めていいよ」

 石光の提案に対し、小島は口元緩ませて回答する。

 「いいわ。後で場所は連絡する」

 「じゃあ、お願いね」

 そのやり取りは教室内の空気を凍り付かせていた。やり取りが終わると、え、えらいこっちゃ……戦争や!と言わんばかりにざわざわし始めた。

 そんななか、俊の携帯電話が振動しメールの着信を報せた。辻からのメールである。


 To:クソ野郎

 件名:何もしないとは?

 結局、なんだかんだいって何かしてるじゃん。


 辻のメールに対し、俊は淡々とメールを作成して返信する。


 To:辻

 件名:さて?

 私は石光さんに情報を与えたまでです。

 その情報を生かすも殺すも石光さん次第。

 つまり、決定権は私にありませんので

 私は何もしていないに等しいのです。


 政治屋の答弁のようなメールを辻に送ると、「あきれた」と短文が返信された。

 辻からの返信を見終わった俊は頭を悩ませていた。

 (どうする?二人がどこで話し合うのかが分からないから観測できない。小島の指定した場所だったら、3か所には絞れるが……。問題はあの2人がちゃんと話し合いができるかということだ。俺の時のように取り巻きをけしかけてきて、話し合いをしようとしない可能性もある。新しい人員を補充している動きは観測していないがそういうことをやりかねん。尾行をするか?いや、俺が動くと目立つからするべきではない。あいにく変装するものも持ってきていない。山下に尾行をさせるか?……駄目だ、十分な教育を施していない。失敗したら俺との協力関係もバレる恐れがある。……探りを入れるか)

 俊は携帯電話を取り出し、SNSアプリを開いた。

 〈お疲れ、さっきの件見ていたと思うが、小島からまた用心棒的なものを頼まれていたりしないか?〉

 《いや、頼まれてはいない。聞いてきてやろうか?》

 〈頼む〉

 藤原が自席からすくっと立ち上がり、小島の席に向かうと一言二言話して、自席に戻った。

 《必要ないってさ》

 〈分かった。ありがとう〉

 俊はSNSアプリを閉じると、メールをしたため始めた。


 To:辻

 件名:引き続き

 石光さんのフォローをお願いいたします。

 先程のようにBCCで構いませんので

 ご連絡を頂ければ幸甚です。

 石光さんと小島さんがどこで話し合うのか

 判明しましたらご教示ください。

 石光さんが小島さんに意思を伝えられるよう

 取り計らうようにしますので。


 俊がメールを送信すると、数秒で辻からは「わかった」という短い返信が届いた。


 To:真紀

 Bcc:クソ野郎

 件名:心配

 さっきのこともあるし、

 心配だから碧との話し合いする場所が

 決まったら教えて。

 話し合いの邪魔はしないから。


 辻がメールを送ると「わかった、ありがとう」と石光から返信が届いた。

 丁度、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、俊は辻からの連絡を待つのみとなった。

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