こんな奴と子作りしろっての? (後編)
プニカの中にインプットされた記憶の中には、生殖行為というものの認識こそあれど、それを実践したという経験は一切ない。
全くの未体験であり、不安がないと言えばウソになる。
それでも、いざ自分が人類の繁栄に臨めるというその立場にあることは、プニカによっては心の底から嬉しいことでもあった。
その身では体験はしていないが、数百年にも及ぶ、かつてのクローンプニカたちによる積み重ねの先に自分が立てているのだから。
何も成し得なかった苦悶を今こそ晴らすときが来た。
そんな想いを溜め込んだものを口から、明瞭に吐き出す。
「
シンと静まりかえった空間に、プニカの言葉が木霊する。
「人類の繁栄という任務を背負った
誰に向けて言い放った言葉なのかは定かではない。ただ、プニカは自分自身の中に何か熱く熱く灯る何かを感じていた。
それは単なる使命感などでは説明の付かない感情だった。
「
自分に言い聞かせるかのようにして言葉を噛みしめた。
無表情のプニカの頬がほんのりと赤く染まる。
決意を新たに、プニカは装いを整える。管理者たるスーツを着こなし、管理者たる端末も装備し、全ての準備は整った。
※ ※ ※
プニカは、リフレッシュルームの扉を開く。
その先にあったのは無機質な真っ白いシンプルな部屋の中、存在感を主張するように置かれた大きめのカプセルだった。
そこにプニカが手を添えると、それだけでカプセルは開封され、静かに横たわる女性が姿を現した。
死んだように眠っており、時間が静止してしまったかのような錯覚に陥るほど。
「ん……、んん……?」
女性の目蓋が揺れる。しばしばとさせながら、そのまま天井をぼんやりと眺めていた。状況が把握できていないというよりも、思考回路が正常に働いていないという方が正しいか。
「ここ、は……っ、ぇほっ! げほっ!」
呼吸方法すら忘れてしまうほど長い眠りに就いていたらしい。数秒後、息が詰まるようにむせ返り、スゥーッと呼吸を整える。
「初めまして。ここは人類居住用コロニー『ノア』。そして
「……は?」
口火を切って途切れさせないプニカの自己紹介を、自己紹介と解釈することができなかったのか、理解を拒絶した表情で返す。
「長い眠りから覚めたことで混乱していると思いますので、簡単にご説明させていただきます。こちらがコロニー『ノア』の全容になります」
そう言ってプニカは手を翻し、立体映像を出力する。プニカの手の中に銀色のタマゴのようなソレが映し出されてきた。
「ひっ!? な、なに? て、手品? 魔法使い? あ、ああ、プロジェクター? あ、いや、これ何処に仕込んでるの? え? あれ? なにそれ……?」
突然目の前に現れたソレを見て、異常なまでに驚き、ますます混乱したような表情で頭を抱え込みだす。流石に寝起きには情報量が多すぎたようで、軽い目眩と頭痛に苛まれている様子だった。
「現在、
「待って! 待って! 待ってってば! なに、なに、何よ、急に! 意味分かんないことをそんな淡々と喋られても困るわよ! なんなの、新手のイタズラなの?」
淡々と説明を続けようとするプニカを遮るようにして、悲鳴のような声で制止を掛ける。理解できるできない以前の問題として、物事を整理する余裕すらなかった。
さすがの剣幕っぷりにプニカも戸惑ったのか、無表情ながらも言葉を止める。
「はぁー……、待って、待ってよ。本当になんなの……?」
同じような言葉を繰り返し呟きながらも、周囲を確認する。荒い呼吸を少しでも落ち着かせようと目元に手を当て目をつむる。
「えっと……、あたしはナモミ。ナモミよ」
記憶の糸をたぐるように自分の名前を引き出す。
「ナモミ様ですね。今後ともよろしくお願いいたします」
そういうとプニカはナモミと名乗った女に向けてペコリとお辞儀をする。
「大変失礼いたしました。
深々と謝るプニカを見て、悪気がないことを把握したナモミは気持ちを落ち着かせるためにもう一度小さく吐息を漏らす。
「ぁー、うん、分かった。今度からはいっぺんに言わないで少しずつお願いね」
「はい、分かりました。ではその前にもう一方、スリープより覚醒させる方がいますので、ご同行願いますか? 細かい説明は合流してからの方が良いと思いますので」
「わ、分かったわ」
釈然とはしないナモミだったが、見ず知らずの場所に置いてけぼりにされるよりかは見ず知らずの少女についていった方がマシだと判断し、一先ずベッドから出る。
プニカに先導されるまま部屋を出ていくと、ナモミはまた不安な表情を浮かべた。
自分のいる場所があまりにも馴染みのなさすぎる風景だったから。
「こちらの部屋になります」
そういって案内された部屋は先ほどと大して変わらないリフレッシュルーム。同じように大きなカプセルが鎮座されていた。
「覚醒させます」
「待って、この中に誰か入ってるの?」
カプセルが開封されようとしている間際、ナモミが血の気の引いた顔を浮かべる。
「はい。情報によれば男性が眠っております。健康状態に関しては良好。子作りをする上では問題がないと思われます」
「こ、子作りぃ!?」
立て続けに、ナモミの顔が驚き一色に染まった。
ナモミの混乱した頭で、人類が絶滅危惧種というワードが蘇る。てっきり小馬鹿にした冗談ではなかったことなのだと改め認識する。
「はい、そうです。
カプセルが開封され、男の姿が二人の前に現れた。
「こんな奴と子作りしろっての?」
呆れ果てるほどの強い怒りを抱いて、ナモミは言葉を強く吐く。
そうこうしているうちに、目の前の男は、ゆっくりと目を覚まそうとしていた。
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