第四十二章
隠された記録
宇宙を流星の如く駆け回る、我らが『サジタリウス』号の格納庫の片隅。そのカプセルを前に、俺とザンカは対面していた。少なくとも言えることは、笑い話が飛び出すような状況ではないということだ。
「――で、秘密裏に解析を進めた結果、このカプセルの回収元はミザールのマーケットであることが判明しました」
「それは、偶然か?」
このカプセル――とどのつまりは、古の王妃の眠っているネクロダストは、あの惑星『カリスト』から回収されてきたものなのだという。
確かに任務の確認の際に聞かされていた。ブラックマーケットに売りに出されていて、そこから押収されたものだと。だが、それだとおかしな話になる。
「断言はできませんが、必然だったんじゃないですかね。ブラックマーケットなんて宇宙規模で見れば数多く存在しますが、我々が任務を請け負ったセクターから近い位置にあるものともなれば絞られるわけですしね」
機械民族の渡航領域にあった件のセクターから、人類の渡航領域内にある惑星『カリスト』までの距離は数値としてみれば遠い距離ではなかった。
俺たちは任務開始からまもなく、渡航領域の境目で襲撃を受けて著しく消耗し、やむを得ず『カリスト』に寄り道をすることとなったわけだが、その道中であまり距離を稼ぐことができていなかったようだ。
まあ、問題点はそこではなく、機械民族が回収したとされるその場所が人類の無法者、機械民族の関与を免れているはずの惑星『カリスト』だったことだが。
「つまり、機械民族側は『カリスト』の存在を認知していたということになる。あの無法地帯を放置していたのか。向こうからの指令の何処にも書かれてなかったぞ」
「それも引っくるめて、ですが、このカプセルのことに関しては流石に機密事項が多すぎます。裏でアルコル・ファミリーと繋がりを持つ何者かがいたとしてもさほど驚きません」
驚愕の事実ではないのか、それは。
人類は機械民族によって統治されている。その常識を覆しているようなものでは。
確かにブラックマーケットでは無法という世界で、多額の金が動き続けている。
その全てを牛耳っているアルコル・ファミリーならば、機械民族の枷を緩ませることも可能だったとも考えられなくもないのか。
「やれやれ……、話がこんがらがりそうだ」
とはいえ、よくよく思い返してもみれば、俺たちの『サジタリウス』号が襲撃に遭ったのは人類の渡航領域を跨いでからだ。異様なまでに早く察知され、恐ろしい数の戦闘船が群がってきていた。
情報が漏洩していたにしても、奇妙なくらいに多かったことは確かだ。
それはつまり、元々はあのネクロダストがそちら側にあったということの裏付けになるのかもしれない。
ネクロダストには外敵から位置を察知されないためのカモフラージュ機能と同列に、他者に発見してもらうための固有の識別信号も搭載されている。おそらく一斉に襲撃に遭った主な要因は識別信号ごとバレていたと考えれば妥当だ。
今はザンカやジニア、ゾッカたちの手によってステルスを強化し、信号もある程度手を加えているから余計な敵に見つからないで済んでいる。
「で、ゼクラさん。さっきちょっと気になることを言ってませんでしたか?」
「ああ、このネクロダストの中身を見た奴がいる、って話か」
現在、俺たちの護衛しているこのカプセルは厳重なロックが掛けられており、中身を覗くことはできない状態にある。おそらくはザンカ辺りならあっさり開封できてしまえそうな気がするのだが、それはまあ別な話だ。
「俺の話は、信憑性に欠けるから何とも言えないが……例のスラムの子供が開封された状態のネクロダストを目撃したらしい」
「それです。それをもう少し詳しく聞かせてくださいよ」
「又聞きになるから正確じゃないぞ」
かいつまんだ話として、その話は自称ツェリーを名乗る本名ブロッサから聞いた話だ。ブロッサが面倒見ている子供の一人が、ミザールのマーケットで物色していたときにたまたま見かけたらしい。
オウとか言ったか、あの子。ズーカイとかくれんぼして、格納庫まで逃げ込んだあの子だ。ブロッサのもとに帰してやったときに、嬉しそうに言っていたようだ。
おやつをくれた大人の人が乗っている船に、お姉ちゃんが寝ている大きなカプセルが置いてあった、と。
おやつを、はズーカイのこととして、お姉ちゃん、というのがよく分からない。
そういえば、目を覚ましたときにそう呟いていたような気もする。てっきりソレに該当するのはブロッサのことだと思っていた。
前後関係を整理するとだ。
オウという少女は以前、一人でこっそりマーケットでご飯を調達しようと思い、ブラついていたところ、開いた状態のネクロダストを目撃した。
それからしばらくして、俺たちの『サジタリウス』号と接触し、ズーカイとかくれんぼを始め、格納庫に逃げ込んだ際、収納されたカプセルを見て、そのときに見たネクロダストと同じものなのだと確信した。つまりは、そういうことだ。
「似たような型のカプセルだっただけだと思うがな」
その方がしっくりくる。何せ、事の発端は開封のできない不審なカプセルが見つかったから機械民族によって回収され、巡り巡って、俺たちのところに護衛の任務が送りつけられるに至ったのだから。
あの少女も幼かったし、その辺の区別がついていたかも怪しい。
「しかし、何やら点と点が線で繋がりそうな気はしますけどね」
「何も無理に繋ぐこともないだろう。偶然だってあるだろうし」
変なところが繋がりそうで繋がらない。なんともはや不気味に思えてくるくらい。
「そんな曖昧な話はもういい。それよりも、肝心なのはロックに関する話だ。結局ザンカ、お前じゃないのか。じゃないとするとジニアか」
ロックに関する話。それは、カプセルのロックが一度、何者かの手によって外され掛けたということだ。
わざわざザンカを格納庫に呼びつけたのは大体その話を問い訊ねるためだった。
開封されそうになった記録が機械民族にバレでもしたら俺たちは極刑だ。
その辺りの隠蔽をザンカに任せておいたのだが、解析したら実はカプセルはミザールにあったという事実が判明し、妙に脱線してしまった。
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