第十四章 After After
いややぁ (前編)
「んんっ……ゼックン、はげしっ……、あかんよぉ」
しおらしくベッドの上、乱れるキャナを前にして、普段とのギャップを堪能しながら、人類の未来についてを頭いっぱいに埋め尽くさせた。
女という生き物はどうして皆、二面性というものを持っているのだろう。そんな疑問も追い払うように。
「――失礼します」
そんな最中、とんでもなく意表をついて現れたのはプニカだった。
確かロックを掛けておいたはずだが、『ノア』の管理者たるプニカには何の意味もなかったか。
「ふえっ!? ぷ、プニちゃ……っ!!?」
突然の闖入者に、キャナがうごうごともがく。というか、シーツごと奪い去ってベッドからふわふわふわと飛び出してしまった。なんだこの浮遊する白い物体は。
よっぽど恥ずかしかったと見た。シーツにくるまったまま逃げ場を求めて白い物体が部屋の中、ふわふわと漂う。
「突然どうしたんだ。何か緊急の話か?」
そういうときは通信端末でも利用してくれると助かるのだが。
全裸でモノを突き出したままの体勢で真顔にならざるを得ないこちらの心境を汲み取ってほしいところだ。
シーツのかたまりは依然として天井あたりをふわふわとしている。
「許可を得ずの入室、大変申し訳ございません。ただ私はどうしても自分を抑えることができなかったのです」
本題を単刀直入に頼む。天井や壁にぶつかっているあの丸まったシーツのために
もなるべく手短に。
「その性行為、私も参加させていただけないでしょうか」
空気の読めなさの前ではプニカに並ぶものは早々いまい。一番最悪のタイミングでその発言を受け入れられるように見えるのだろうか。
とても手身近とは思えないほどの解説口調でプニカが語る。
要約すると、ついこの間のナモミとの合同による行為が自分の想定以上に良い経験になったらしく、もっと色々な現場を試してみたくなった、とのこと。
良い経験になったかどうか、それは俺にはよく分からない話だが、確かにいつもとはかなり勝手が違ったことは認めよう。
例のプニカのセックスドリンクなる人騒がせな代物のせいで、ナモミがえらい暴走してしまい、とんでもないドタバタ騒動だったのだが、プニカはアレが気に入ったということなのだろうか。
俺もあんま理性を失ったナモミは見たことがなかったし、ああいうテクニックを持ち合わせていたという事実にも驚いたものだ。
おそらくプニカはこう推理したのだ。あのナモミの持つ技術はキャナから受け継いだものだと。そしてキャナと共にすれば自分も会得できるのだと。
キャナこそ、自分がお手本にすべきものだと確信を抱いているに違いない。
浅はかな考えだ。プニカらしく、浅はかな考えだ。
プニカは何も分かっちゃいない。
目の前をふわふわ浮かんでいる丸まりシーツがこと性行為において、奥手だという事実をご存じでないようだ。確かに、普段のキャナは積極的だ。明朗活発といってもいい。しかし、しかしだ。ベッドの上だとてんでこれが逆転する。
いつもナモミに絡んでいるから勘違いして当然といえば当然か。
「お願いします、キャナ様」
そう言いながらプニカがシーツをくいくい引っ張る。やめてやれ。本当に恥ずかしくて蒸発しそうなんだよ、そいつは。
「にゃあぁぁ……、にゃあぁぁ……」
早くここから抜け出したいという一心で、謎の鳴き声を上げながらふわふわと右へ、左へと揺れ、よく分からない抵抗をしている。
キャナがプニカのことを苦手にしている、ということも、プニカ自身やっぱり分かっていないんだろうな。
俺からしてみれば、プニカは無表情だが、その顔を見れば何を考えているか分かる程度には感情が滲み出ている。さらには、興奮すると無表情の仮面の下から本音というのか本性というのか、とても幼稚で純粋な一面を覗かせることも知っている。
ただ、キャナにはソレを汲み取れないらしい。プニカは何処までいっても無表情で、何を考えているのか分からないほど得体の知れない何かで、その下に秘めている本心というのも理解できていないようだ。
端から見れば、普段冷静なのに、突然子供のようにはしゃぎだすプニカはキャナにとって不気味で仕方ないのだろう。内面が子供のようでいて、子供には理解できそうにもない小難しい話をたらたらと喋りだすのもきっと苦手と思う。
プニカの実態は、何百年分の知識や経験の情報をぶち込まれているだけの、ただの女の子と変わりない。キャナ自身、そういうことを頭で理解できているのかもしれないが、見た目と中身のちぐはぐ感に、妙なモヤモヤを抱いているとみた。
そりが合わないというのはこういうことを言うに違いない。
ちょっと会話するだけなら大したことはないのだが、根本的に相性がよくないのだろう。
二人が出会ってもう結構経っていると思うが、相変わらずキャナはナモミによく絡む一方で、プニカに自分から積極的に絡みに行ったところを見たことがない。
プニカからしてみれば、ナモミが羨ましいと感じている面もありそうだ。何せ、
きっとプニカは自分もあんな風に全身で感じたいと思っているのだろう。
だからこそ、今日は人の性行為中にこんな乱入という形で突撃してきたのだと。
「キャナ様~」
「んにゃあっ」
どう考えても無理があるだろ。そう思わざるを得ない。
そもそも前回、プニカが同じ提案をあげたとき、キャナは我先にと一目散に逃げ出していったことをもう忘れてしまったのだろうか。いや、むしろ分かってたからこそ今回、強硬手段に出てきたということか。
「どうか、お願いします!」
くいくいとシーツを引っ張る。プニカは意外とこういうところではなかなかしつこい。好奇心の塊だ。タガが外れると手が付けられない。
シーツを引っぺがし、何を思ったのか、プニカがキャナに抱きつく。
「ひゃわぁっ!?」
そのままキャナはしがみつくプニカをそのままに部屋中を縦横無尽に飛んでいってしまう。全裸で飛び回るキャナと、いつの間にか全裸になってたプニカが飛び回っている不思議な光景。
全裸の女の子二人、一体何をやっているんだ。
なんなんだ、この状況。俺は一体この状況で何をすべきなのだろう。
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