第85話 妄想ではなく
目を覚ましてみると、自宅の天井を見上げていた。
洗面所に行って鏡を見てみた。挟間竜樹に付けられた傷痕は、まだうっすら残っていた。疲れている顔をしていた。
玄関に行き、靴を見てみた。靴底には、血がこびりついていた。
部屋に戻って、テレビをつけてみた。新興宗教の教祖平地天回が起こした、地下鉄爆破未遂事件を大々的に放送していた。
夢とか、僕の作り上げた妄想ではなかったようだ。
昨晩は、呂井人が乗った救急車を見送った後、その場で警察と色々話した。内容は良く覚えていない。僕はきちんと話すことが出来ていたのだろうか。その後は、光が丘に置いてきたバイクを取りに行く元気もなく、タクシーで家に帰った。タクシーの運転手が、地下鉄で何か事故が起きたようだとか、そのせいで道が混んでいるとか言っていたが、ろくに返事も出来なかった。楽香に何度も電話したが、つながることは無かった。帰宅した後は、気を失うように眠りに落ちた。
疲れて動きたくなかったが、光が丘にバイクを取りに行くことにした。電車の運行情報を調べてみると、大江戸線はまだ動いていないようなので、タクシーを使うことにした。
光が丘に近付くにつれ、道路は混んできた。上空にはヘリコプターも飛び回り、物々しい雰囲気が街を包んでいた。「彼方への道」の集団自殺が発見されたのだろう。しばらくはこの事件で大騒ぎだ。
タクシーが渋滞にはまり動かなくなったので、残りの道は歩くことにした。「彼方への道」の教団施設も見ていこうと思ったが、警察に封鎖されていて、近付くことは出来なかった。
光が丘駅の近くに乗り捨てていたバイクは、駐車禁止で取り締まられることもなく、静かに僕を待っていてくれた。
渋滞している車の横をすり抜けながら、自宅へとバイクを走らせた。
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