第13話 意外なところで会うファン
しばらく走って小さな公園の前でバイクを停めた。
「大丈夫か?」
「大丈夫。だと思う」
そう言いながら男はよたよたと歩き、公園の水道で顔を洗った。傷にしみるらしく、時々悲鳴を上げていた。
顔を洗った男の顔を見た。顔中かなり腫れてきていて、鼻も曲がっている。元の顔はどういう顔だったのだろう。
「鼻折れているな。病院いくか?」
男はバイクのミラーで顔を確認した。
「うわ。ひどい顔している。普通の病院には行けないな。情報が漏れると怖い。知り合いの闇医者に行くよ」
僕は自分の拳を見た。ハンカチのおかげか、特に怪我は無い。ほっとした。そこで初めて仮面を付けたままなのに気付いた。この男の前で素顔をさらすのはどうかと思い、仮面は装着したままにすることにした。
「ありがとう。殺されるところだったよ。俺、フリーのライターなんだけど、ある宗教を追っていてね。失敗して殺されかけちゃった。いやあ、危なかった。ちょっと踏み込みすぎちゃったよ」
そう言いながら、男はまた苦痛のうめき声を発した。
殺されかけたのに、飄々と話す奴だ。反省とかはしている様子はない。少し呆れてしまった。
「もう一つの世界が近付いてくるとか言っていたけど、随分と危険な宗教もあったものだな」
「ああ、あいつら、練馬の奥地に本拠地がある、「彼方への道」っていう新興宗教なんだけど、教義もおかしいし、宗教法人の立場を利用して色々やっているし、かなりやばい奴らだ。関わり合いにならない方が良いよ」
関わりたくて関わったわけではない。巻き込まれただけだ。
「俺はこういうものだよ」
名刺を差し出してきた。名刺には山田大司と書いてあった。電話番号なども記載されていた。
「またさっきの奴らに襲われたりしないのか?」
「しばらくは身を潜めていないとな。見つかったら今度こそやばい」
こんな世界が本当にあるのだな。茂原社長の話と言い、日本も安全ではない。
「それじゃあ病院にいって、安全な場所に引きこもっていてくれ」
帰ろうとバイクに向かった。仮面をはずし、ヘルメットをかぶった。
「ちょっと待ってくれよ。助けてくれたお礼をしたい。あんたの服にも血付けちゃったし」
服を見ると、確かに血が付いていた。血まみれの山田を担いで走ったのだから当然か。
「別にいいよ。安物だし」
僕は構わず帰ろうとした。
「あんた。高橋枢名か?」
驚いた。いきなり正体を見破られてしまった。
「格闘家の高橋枢名だろ。うお、すげえ人に助けられちまったぜ。ラッキー」
こっちはラッキーじゃない。
「どうりで強いはずだ。今日の活躍を本に載せたら、さらにファンが増えるよ」
「せっかく助かったのだから、余計なことするな」
「へへ、余計なことはしないし、このお礼は必ずするよ。だから、病院まで乗っけてくれない?」
怪我人をここで放り出すのも気が引ける。帰って寝たかったが、山田を後ろに乗せて、闇医者の所まで運んだ。僕はそこで帰った。山田には電話番号を教えておいた。あとは自分でなんとかしてもらおう。
試合もあるかどうかわからず、変なことにまで巻き込まれてしまった。僕は大きなため息をついた。
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