第12話

「"翠"の記憶もほとんど無いわ。どうして身体を、命を研究所に提供したのかは分からない。もしかしたら望んで行われたものでは無かったのかも。でもね。」


 翠さんの乾燥しきった指が、僕のブリキの頬をなぞる。


「彼女は酢漿を愛していたの。酢漿野原を。父と母と沢山遊んだ場所。

 三人で、土だらけになって四つ葉の酢漿を探したの。おにぎりを食べて、夕日が沈むまで。それが彼女の一番の幸せだった。

 だから、貴方にここを守っていてほしい。太陽と土の失われたこの世界で唯一、四つ葉の酢漿が眠っている、この小さな場所を。

 それくらいには、私はあなたを愛しいと思っている。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます