第7話

 ひと月ほど前の事である。料理部の活動の一つに、「創作料理コンテスト参加」なるものがあった。


 僕は料理の腕はからきしだ。しかし、そんな僕だってれっきとした部員である。その日、僕は何人かの部員と共に新味の素スタジアムに向かった。

 元々生きた化石扱いだった料理研究部は、翠さんという名の客寄せパンダを失った今、深刻な部員不足に悩まされていた。

 そうは言ってもコンテストメンバーを補うには十分な人数の為、僕の今日の仕事は雑用のみであるが。


 ていのいい荷物持ち兼道案内から解放された後、いそいそと準備を始める部員を尻目に、僕はトイレの場所を確認するという名目で客席の間をぶらぶらと練り歩いた。


 今年のテーマは本当に酷い。二月だからてっきり「バレンタイン!チョコレート対決」とかを期待していたのに、実際は「健康増進!精進料理対決」である。葉っぱと根っこでできた食事を何故わざわざ作るのか。多分、二年前からずっと尾を引いている「平安時代ブーム」のせいだ。


 まあ、バレンタイン希望なのだって、チョコレートが特別好きな訳では無いですけど。ただ単に試食として女子高生の手作りチョコが食べたいだけですけど。料理部?自分用チョコしか作らないから、もらった事が無いんだよ。悪いかっ。


『キュウリの浅漬け』を頬張りながら『スイートポテト』の試食テーブルに手を伸ばそうとして。


「ドンッ」


 身体に走った衝撃。反射的に振り返ると、一枚の白い紙が乗った座席がある。青いプラスチック製で、背もたれには『JAL』の大きな広告文字がプリントされたやつ。


 なんで椅子がぶつかってくるんだ!

『JAL』ならそれこそ緊急停止機能エマージェンシーブレーキとか、つければ良いのに。いや何を言っているんだ僕は。

 悪態をつきながら紙切れを拾い上げた。


 それは封筒だった。手紙とはまた古風な。

 宛名の無いそれは、僕の手の中では酷く眩しく見えた。

 白は儚いように見えて、光をこれでもかというほど跳ね返す強い色だ。

 反対側を見て、僕は驚くと共になんだか可笑しくなってしまった。思いの外、可愛らしい事をする人だ。

 見えていないだけで、僕の口角も上がっていたりするのだろうか。


 四つ葉のクローバーがプリントされた封筒の中には、住所と一ヶ月後の日付、


『汚れても良い格好で来て下さい。』


と達筆で記された紙切れが入っていた。

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