26.「お兄さん」
と目の前の学生服の少女はそう言った。
『お兄さん』?お兄さんとは誰か。
「お兄さん、折角訪ねてきたのに不在だから心配しましたよ。今日会う約束してたのに・・・所で、そっちのお兄さんに抱きついている人、誰・・・ですか?」
ふるふると口を震わせて、その学生服の少女は自称妹を指差している。
「えっ?、えっ?、あの、お兄ちゃん、この人知り合い・・・?」
自称妹は不安そうな目で僕を見ている。
「勿論知らない。君同様に・・・。」
何だか新たな面倒事が発生した気がする。
「んもー、私同様って、お兄ちゃんひどーい!」
頬を膨らませる自称妹。
「お兄さん・・・まさか、いくらモテないからって、そんな・・・」
学生服の少女はカチカチ歯を鳴らしている。
何か誤解をされている気がする。
「離れて!お兄さんから離れて!!」
学生服の少女は自称妹に掴みかかり、僕から引き離そうとした。
「きゃっ!い、痛っ・・・!」
自称妹は苦悶の表情を浮かべた。
「おい!ちょっと待てって。」
「お兄さん!こんな、私と同じ位の人相手に売春なんて、ダメ!絶対!」
学生服の少女は顔を真っ赤にさせて僕に怒鳴り付けた。
「売春?ちと、君!まずは落ち着け!落ち着けというか・・・」
そう、落ち着かせるのも大事だが、もっと重大な事がある。
「君、こいつが見えるのか?」
僕は自称妹を指差して、学生服の少女に聞いた。
学生服の少女は怪訝そうな顔をした。
「見えるって何ですか?」
「だから、この、僕の腕に絡み付いている幸薄そうな女の子が・・・」
「幸薄そうってなんだよう!お兄ちゃん!」
「・・・お兄ちゃん・・・って、貴女・・・。」
怪訝そうな目で自称妹を見つめる少女。
間違いない、この制服姿の少女は自称妹を見えている!
「お兄さん、そんな、兄妹プレイなんて・・・妹に餓えているなら・・・いや、そんな倒錯的なのダメです!」
あー、うるさいうるさい。これは困った事になった。実に困った。
この制服姿の少女は他人から見えない自称妹が見える。勿論、彼女は自称妹同様僕自身は面識が無いが、彼女は僕を知っている。
という事は、自称妹同様に・・・。
「聞いているんですか!お兄さん!」
ぼんやりとしている僕に制服姿の少女はギャーギャー文句を言っている。
『お兄さん』という事は・・・まあ、そういう事なんだろうとちらりと自称妹を見た。
「ら、乱暴しないで・・・!って、私が見えてる・・・掴めているという事は・・・。」
自称妹も気付き始めた様だ。
「なあ、君」
「何ですか!お兄さん」
制服の少女は話しかけた僕に返事をした。その声音や視線は近親者に対してのものの性質だった。
「ちょっと、コンビニにでも行ってみないか?行けば、この隣の子の事も良く分かると思うから。」
興奮する少女に僕は穏やかに言ってやった。
「コンビニ?何の事?」
制服の少女はポカンと表情を崩した。
「いいからいいから。とりあえずは全てが分かるからさ。なっ?。」
僕は努めて健やかに言うと
「ん・・・。分かりました。一緒に行きましょう、お兄さん。」
と制服の少女は訝しげに答えた。
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