9.「有り難うね。お兄ちゃん。」

自称妹はティッシュで涙を拭きながら(僕の家を我が物顔でうろついてティッシュを自然に取りやがった!)僕に感謝の念を述べた。


見たとこ高校生ぐらいだし、結構可愛いし、上手くいったら一発ヤらせてくれるかもだしな。・・・いやいや、ちゃんと後数年経ってこの自称妹氏が然るべき年齢になってからですよ?・・・誰に言い訳してるんだ僕は。まあ、それに誰も気づかれないのだから、別に何しようが言い訳の必要も無いんだが。(別に兄妹でも無いしな!)


って、後数年経ったらって、後数年この頭おかしいガキを家に置いとく気か、僕は。


「何やってるの?お兄ちゃん?」


己の不明さに頭をブンブン振り回していると自称妹が僕に声をかけた。


「・・・ごめんなさいお兄ちゃん」


自称妹はぺこりと頭を下げた。


「困ってるでしょ?私がここに居て」


「うん」と肯定したいが肯定しがたい事を言うなし。「・・・とりあえず、メシにしよう腹へったから」


僕の提案に自称妹は「うん」と頷いた。


さて、牛丼屋にでも行きたいが、見えない気づかれないこいつを連れて行ってまともに食事出来るのだろうか。


まあ持ち帰りでもすれば良い。


「ちょっとすき屋に行ってくるわ、牛丼買ってくる。トッピングは何が良い?。」


と自称妹に聞くと


「えっ?」


と自称妹は驚いた 。


「そ、そんな事しなくても私が作るよ。いつも作ってるし」


「えっ!?」


今度は僕が驚いた。


今時家事で食事を作る高校生が居るのか。


まったく健気な。遊び盛りだろうに。


「君、いつも、ええと、兄貴?にメシ作ってるの?」


と聞くと自称妹はこくりと頷いた。


「高校生の癖に苦労してるんだなあ、ろくに部活も遊びも出来ないだろう?」


と聞くと。


「・・・わ、私、不登校だから時間はたっぷりあるから・・・。」


「ええぇ・・」


何とまあ僕の妹を自称する妹はヒッキーだそうだ。


彼女の想像上の兄よ。妹の教育がなってないんじゃないか。てきとーな男と付き合いでもして若々しい青春を送れば良いものを


そうこう考えてる内に自称妹は冷蔵庫の扉を開けた。「わっ!。」


冷蔵庫の中身を見たとたんに自称妹は驚いた様だった。


「どうしたんだ?」


「ビールばっかり・・・ビールしか置いてない ・・・」


失礼な。冷凍唐揚げも置いている。


「最初お兄ちゃんのアパートに来た時と中身が一緒だよ~。」


自称妹ははふぅとため息をついた。


「僕は大体外食か惣菜だからなあ」


一人暮らしになると料理を作るのが面倒になる。1日の半分を通勤+労働に費やしていると他人に食べさせるものならまだしも自分が食べる物にいちいち手間をかける気力は雲散霧消してしまうのだ。


「そんなの、ダメだよ。絶対」


自称妹は麻薬撲滅ポスターの標語みたいな事をほざく。


「いいからいいから、早くメシにしよう。この唐揚げをチンすりゃいいから。朝っぱらから君とうだうだ駄弁るのも疲れるんだ」


とシッシと手を降って言ってやると、自称妹は無言になってしまった。


「どうした?」


「 ・・・」


「どうしたんだ?」


「・・・」


「あのー、ちょっとぉー?おーい」


「お兄ちゃ冷たいよ 」


「え、え・・」


僕は狼狽した。


「優しくしてよ・・」


ポロポロ自称妹は泣いていた。


困る、困るぞ、泣かれては。非常にめんどくさい。誰かにこんないたいけな女の子が泣かせている姿を見られたら児童虐待者として社会的に殺害されてしまう。「・・・私、誰にも気づかれないから、誰かに見られても大丈夫だもん」


ああ、そうだった。いや、そうじゃなくて。


「ほら、泣き止めって、とりあえず、唐揚げを食べよう。美味しい物を食べたら嫌な事もきっと忘れるって」


と僕は、あはあは愛想を振る舞って言ってやった。


全く何で僕が見も知らないガキンチョに気遣いせにゃならないのだ。


うんざりしつつ様子を伺っていると


「・・・お兄ちゃんはもっと優しいのに・・・どうして・・・、お兄ちゃん以外、私の事誰も気づけないんだよ?」


ポロポロポロポロ涙を流しながら自称妹は僕を睨み付けて、怒り出すのであった。


「いや、まあ、その、悪かった、とにかく悪かった。」


何か泣かせたままで出ていけと言うのもアレだから、僕はひたすらに謝ってなだめ透かせた。

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