第132話成長せし者たちの中で、不変を叫ぶ
『士別れて三日、即ち更に
慣用句好きの師範代は、しばしばそれを指導に使っていた。だからこそその言葉は、自然と耳についている。
でも、今までの私はそれを言葉として理解していたに過ぎない。
正直言って、人間そう簡単に変化できたら苦労しない。
多分あの時も、そしてついさっきまでも、私はそう考えていたと思う。
現に私はその事で苦労しっぱなしだった。
でも、その考えは間違っていた。それは、今のルキを見ればよくわかる。
――人間、変わる事が出来る。ルキはそれを証明していた。
今ルキは、前衛として複数の勇者を相手に戦っている。
高速化した動きで、敵を翻弄するだけでない。正面から受け止めず、最小の間合いでかわし、いなす。その組み合わせで懐に飛び込み、最も効率的に敵の弱点をついていた。
鎧を着ているものは、鎧の継ぎ目を。
動きの速いものは、まずその足を。
確実に弱体化する方法をしっかり実践している。
そして、エトリスとネトリスが召喚した召喚獣もかなりの実力を持っていた。それらとうまく連携している分、向こうにはさぞ嫌な相手だったことだろう。
いや、それだけではない。
エトリスとネトリスの魔法もかなりのモノだった。姉妹ならではの息の合ったコンビ魔法が、ルキの働きを高めていく。
電撃が敵の進路を遮り、光の爆発が敵の視界を奪い去る。
それは刹那の行動阻止。だが、その一瞬を逃すルキではなかった。
しかもそれだけではない。
足元をぬかるみに変えてみたり、段差をほんの少しつけてみたりして、注意していないところにまで魔法を使用している。
敵にとっては本当に厄介だったことだろう。
しかも急に何もないところに、ルキが反転するための足場を作り出したりもしていたから、その動きも読み辛かったに違いない。
それはまさに職人芸。
魔法で敵を攻撃するだけでない。ルキにかけて援護しているだけでもない。
様々な魔法を組み合わせて、最大限の効果を引き出している二人の魔法。
それは実に見事な輝きを放っていた。
そこにルキが加わっていく。
三人の見事に息を合わせた行動が、数で勝る勇者を圧倒し続けていた。
そう、すでに四人の勇者がすでに無力化されている。その全ては、最終的にルキの手によるものだった。
メシペルの勇者達に焦りの色が濃くなった時、その動きは単調なものに変化していた。
おそらく、エトリスとネトリスの魔法が最も厄介だと思ったのだろう。
召喚獣の間を抜け、勇者達は二人に向かっていくことが多かった。
それはルキにとっては格好の標的。自分から注意がそれたその一瞬で、ルキは勇者の虚をついていた。
その攻撃は間違いなく致命傷になっているものの、早く治療すれば助かるようにも攻撃していた。
命のやり取りではない。ルキはたぶんそう言いたいに違いない。
本当にルキには色々と驚かされてばかりだ。そう言えば、その信念にも助けられた。
『もう勇者なんていらない』
その一言が私に道を見せてくれた。
信頼という名の光で、暗い闇に沈んだ私を目覚めさせてくれた。
そして、くだらないことで笑える素晴らしさを、再び思い出させてくれていた。
短く整えた銀色の髪が、美しく舞っていく。その舞が終焉に向かう頃、残るはクエンただ一人となっていた。
――さすがだな。三人とも、その実力をしっかり評価できている。
改めて息を整えるルキと、召喚獣を更に召還していくエトリスとネトリス。
ほとばしる緊張感は、三人をそこに釘付けにもしている。
だが、堂々と歩み寄る、一人の男がそこにいた。
「じゃあ、いよいよ俺様の出番だな! かかってきな! その
ルキの戦いに触発され、おそらくじっとしていられなかったのだろう。いつの間にか前に出てきたガドラが、クエンにその剣を向けていた。
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