第112話回想4
「さて、ヴェルドさん。これでどうでしょう? そろそろ真実を語ってもらえませんか?」
にこやかな笑みを浮かべつつ、店長はゆっくりとだが、さらに近づいてきた。
人払いをしたとでもいいたのだろうか? その雰囲気はそれを醸し出している。
「さっきの刀。あれは
ひとつずつ物事を整理していくような口調。それは、自分に言い聞かせているというよりも、私が反論する点を見極めようとしているようだった。
――店長の瞳に、油断のない光が一層強まっていく。
「最初の刀もおそらく七振りの
さらに一歩踏み込んで、店長は私に迫ってきた。
――何という情報力。一体どこまでの情報を知っている?
だから、
そう仮定したとしても、
普通、
「いえ、商人の情報力はどこの世界でも同じですよ。情報の大切さは、商売するものなら誰でも知っている事です。超古代の古代語文献に、その存在が予言されてますのでね」
まるで見透かしたような口ぶりに、思わず自分の表情がこわばっていることを感じてしまった。
――これは、経験のなせる技なのだろう。相手の心理を読み取るというよりも、察するというものに違いない。
本当にアンタ何者だ?
「しかもその様子では、あなたは竜にも認められている。そもそも、この国に宣戦布告しているのは、デザルス王国のみです。当然、デザルス王国の勇者にもそういったものはおりません。サファリと三騎士は
ついに最後の一歩を踏み出し、店長は私のすぐ目の前にやってきた。
銀竜を前にしても怯えた様子は少しもない。自分ではそう言っていたけど、たぶん私の行動を観察していたのだろう。何から何まで、何を考えているかわからない。
でも、こんな感じは嫌いじゃない。いや、懐かしいと言ってもいいかもしれない。
――さあ、どうするか……。
真実を語るのは簡単だろう。でも、それを受け入れてくれるとは限らない。信じられないような現実を、この人がどう判断するのか未知数だ。
言葉には真実というものは存在しない。受け取った人がそれを判断するだけだ。
「私が語ることが真実だという保証はあなたにはないはずだ。それを判断する材料すらないでしょう。その上で、私が何者かを語ることに意味があるとは思えない」
店長の目をまっすぐにとらえて話してみる。重要なことは、今この人が私をどう判断するかだろう。私自身が何者だとしても……。
沈黙が私達をぐるぐるととり囲んでいく。永劫に続くかと思われたそれは、店長が引き起こした大きなため息でかき消された。
「そうですね……。貴方が何者であるかを語ったとしても、それは重要な事ではないですね。この場合、僕がどう判断するかですね」
かぶりを振ったその後に、さわやかな笑みを浮かべている。
そしておもむろに告げられた、その一言。それ言葉が、私の驚きと共に忘れえぬものになるとは想像もできなかった。
「では、ヴェルドさん。僕と友達になってください」
否応なく、いきなり差し出された右手に視線がいく。そして、そのままゆっくりと視線をあげていくと、そこには一点の曇りもない晴れやかな笑顔があった。
――いきなり何を言い出すかと思えば友達宣言?
いや、むしろその言葉を使った事に戸惑いを覚える。
この世界にきてから、仲間という言葉には度々出会ってきたけど、友達なんて言葉はなかった。
「利害なんてわからないでしょ? だから、今は仲間になってくださいとはいえない。でも、僕はヴェルドさんとは友達になれる気がするんです。何て言ったらいいのかな……。そう、同じ匂いがするって言えば分りますか?」
こちらの戸惑いを見透かしたような店長の言葉。
――ああ、なるほど。この人も感じてたのか……。
ぶ厚い雲の隙間から、一条の光が店長を包んでいる。雨が降るかに思えたその空は、徐々にその青さを取り戻していた。
「では、あらためてよろしく、シガダさん。私のことはヴェルドでいい――」
「友達ですよ? シガダでいいです。呼びにくければ、店長でも構いませんよ。どうです? 後で僕の店にご招待します。といっても、コンビニなので買ってくださいね!」
差し出された手をとり、改めて挨拶したつもりだった。でも、この手の人種はどれも同じ行動をとる。
「いやぁ、この出会いにスーパー感謝です!」
両手で私の手を包み、ブンブンと振り動かす店長。おかげで腕がもげそうなくらいに動かされてしまっている。
――あれ? ちょっと早まった?
後悔が周囲からにじり寄ってきていた。
だが、店長はそれらを払い飛ばす勢いを見せていた。
精霊たち、そして銀竜と土竜も見守る中、店長の笑い声が響き渡る。
しかも、どれだけ振り動かしても、店長は決して手を離しはしなかった。
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