第108話駄菓子屋という名のコンビニその7

「どうしててんちょーがその事を知ってるんですか? はっ! もしかして、いつもわたしをつけまわして……。おやすみの時のあの視線も、てんちょーのものだったんですね! きもちわるいです!」

「スーパーあまいね、花岡君。わざわざ君をスーパーストーキングしなくても、君のスーパー小魚ちゃんたちがスーパー教えてくれるよ。僕のスーパー留守中に、君がスーパー居眠りしていることもね」

フラウと店長のかみあってそうで、かみ合わない話。それは、まだまだ終わる気配を見せていない。

といっても、半分以上冗談のような会話を繰り返しているに過ぎない。


お茶を持ったまま、表情豊かに変化するフラウ。それに対して店長は、のらりくらりとした対応を繰り返している。


この感じ……。

おそらく店長はフラウと話しながら、考えをまとめているのだろう。私に背を向けて、フラウと話し続けているのも、多分うやむやにしながらも何かを考えているというアピールに違いない。

何の根拠もないこの感覚は、もはや確信といってもいい。


だけど、そろそろ店長も顔つきが変わっているんじゃないか?


――うん、そろそろフラウには退場してもらおう。これからどうするつもりなのかも知っておく必要がある。

いい具合に、話がまた元に戻ってきている。


「フラウ。店長のことをどう思うとか、そういうんじゃなくね――」

「まさか! ああ、そんなまさか! スーパーヴェルドさん。僕のことはスーパー遊びだったと!? 僕はこんなにスーパー真剣に!」


――はぁ? 何言ってんだ、アンタ?


いや、これは違う。思わずツッコミ入れそうになったけど、これは罠に違いない。


私の発言を遮った店長は、じりじりと私から離れていく。押されるように後退するフラウ。


「やっぱり! やっぱり! やっぱり、そうだったんですね! ヴェルドさんだけは、信じてたのにー! うわーん!」

持っていたお茶を持ちながら、泣き声をあげてゆっくりと部屋を出ていくフラウ。しかも、扉から出るときに、チラッとこっちを振り返っている。


――だから、その「うわーん」ってなんだ? しかも、やたら遅くないか? その振り返りには何か意味があるのか?


「花岡君! 君はスーパー帰っていいけど! スーパーぬるくなったお茶だけは、スーパー置いていくんだ! あとそれ以上、スーパー泣きまねしなくていいから! ばれてるから! それに、スーパー追いかけるのは僕だよ! スーパーヴェルドさんじゃなくて!」

まったくひどい言い方で、同じようにゆっくりと追いかけていく店長。


――なぜ、スローモーション? あんたらだけ、時間の経過おかしくない?


「てんちょーは追いかけてこないでください! 追いかける役は、ヴェルドさんでお願いします。 わたし、いつまでもまってますから!」


――いや、別に待たなくていい。


「花岡君! さっきも言ったけど、スーパーヴェルドさんはスーパー追いかけてこないから! 僕がスーパー追いかけないと、君の演技がスーパー台無しになるよ! 今だって、スーパーお茶が飲みたいと思ってるはずさ! 僕にはわかる。『以心伝心』、心と心がつながっているというやつさ!」

「こころとこころ……。それは、あの……。『ぷらすちっく・らぶ』ですね! くやしー! くやしーです!」

「ははは、花岡君! スーパーくやしそうだね! その顔もまた、スーパー人気がでそうだよ!」


――やれやれだ……。二人共、いったんリサイクルして戻ってこい。


扉の外に出て見えないと思ってるのだろうけど、私は剣士ソードマンだからね。


わかるよ、君らの気配。


もうそれ、とっくに追いついてるじゃないか……。

ていうか、あの距離で本気で追いかけたら、フラウが勇者の店長から逃げれるわけがない。


それにしても、あくまで自分で片づけるのですね、店長。

人を信じていないわけじゃないのだろうけど、相変わらず人に頼ることをしない人だ。


「ほらほら、花岡君! 早く逃げないと、スーパー追いついちゃうぞ! 追いついたら、今月の給料をスーパー半額セールにするから!」

「てんちょー! それ、ぱわはらです! わたしのお金です! ばいにしてください! ついでに、いしゃりょーも請求します! あっ、ざんぎょー代もばいですからね」

「花岡君! 君のスーパー居眠り・・・残業はちゃんとスーパーつけてるから安心していいよ。君のスーパーよだれつき寝顔も、スーパー記録しているから安心していいよ。こんどスーパー広告につかうからね! これで、君のファンもスーパーうなぎのぼりまちがいなしだ!」

「えぇー!? いつのまにそんなのとったんですか! しんじられません! せくはらです! かえしてください、わたしの寝顔!」

「スーパー返してほしかったら、この僕をスーパーつかまえてごらん! ははっ、こっちだよ、花岡君! あはは! あははは! ほらほら! あはは!」

「ずるいです、てんちょー! おいつけるわけないじゃないですか! 逃げる役はやっぱりヴェルドさんでお願いします! ペットさんにらくがきしますよ!」


――あっ、逃げた。しかも、何気にラブコメ風。


しかも、ものすごいスピードで店の外に飛び出して行く。


――あんた、それ……。一体誰から逃げてるつもりだ?


「むりです! まってください! てんちょー! てんちょうーでがまんします! ペットさんにらくがきなんてしませんから! 秘密のおかしも、さがして勝手にたべませんから! それから、それから――」

セリフはともかく、それでも健気に追い続けるフラウ。声がだんだん小さくなっていくのは、遠ざかっているからだけではないだろう。


それにしても、なんだか残念な懺悔だな。色んな意味で、本当に気の毒に思えてきた。


それにしても、店長……。


何でもかんでも背負えるわけじゃないことは知ってるはずなのに、それでもまず自分で行動する。

店長はまさしくそういう人だった。


――そう言えば、あの時もそうだった……。


分かりやすい店長の態度に、あの時の事がよみがえる。


「でも、これでまたヴェルド君の店番も確定したわけだね。あの店長、やっぱりくせものっていうやつだね」

一斉に飛び出した精霊たちの憐れむような視線の中から飛び出した、優育ひなりの言葉が現実を見せつける。


あれ?


ダビドの気配……。そういえばずっと無かったわ……。

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