第72話情報屋
「で? 君はここで、この家を守っているのかな?」
ふんわりと、飛び立った
仁王立ちしているようなその姿。
その小さな背中に、なんだかとっても頼もしさを感じていた。
「あはは! そんなに警戒しなくても、君たちのマスターに憑いたりはしないよ。僕はこの家を守るのが役目だしね。中では主人と、あともう一人いるけど、入るかい?」
その瞳はいたずら好きを感じさせるものだった。さっきの視線は、やっぱり憑依をしようとしたものだったんだ。
あぶない、あぶない。
ブラウニーはいたずら好きの家の精霊だと教えられている。家についている事が多いけど、人間についてくることもあると書かれていた。
日本で言う座敷童のようなものと、私の中では理解している。
未だに自分の家というものを持っていない私にとって、今最も縁のない精霊だろう。
「情報屋のケンさんは、君のいう主人のことかい?」
とりあえず、ここが目的地なのは間違いないだろう。ちょっと違うけど、出発地が目的地だというのは、謎ではありがちなものだと思う。
「そうだと言えるし、そうとも言えない。まあ、入ってみればわかると思うよ」
この国は、よほど謎が好きなのだろうか? いや、この場合はここの主人というべきかな?
それとも、このブラウニーが悪戯好きなだけなのか?
考えても仕方がないことだと思いながら、二人を伴ってその家に入ることにした。
*
「初めまして、お客人とこの世界の人間たち。私がこの家の主人ディーナ・ニマンだよ。こっちはシルキー。ブラウニーと共に、この家のことを色々としてもらっている」
ディーナと言ってきた人物は、まぎれもなくあのエルフだった。
なんだろう、無性にこの出会いに感謝したくなった。
アニメではない。でも、目の前にいるのは、アニメの世界のエルフだ。
生エルフって言ったら怒られるかな?
でも、これが興奮せずにいられるだろうか!
この同一性は、誰かがこっちの世界と日本――もしくは幅広く向こうの世界かもしれないが――とを行き来した可能性があるということだ。
少なくとも、こっちの世界から、元の世界への情報が流れていると言えるだろう。
『ことワザ』をはじめとして、今までは、こっちの世界に、元の世界の情報が流れている事にしか出会えなかった。
もしかすると、帰れる手段があるのかもしれない……。
そう考えると、興奮せずにはいられなかった。
「ヴェルド?」
今、それを気にしてどうなる?
仮に、その手段を目の前にした時に、私はそれを選ぶのか?
いや、そんなことはしない。
誓って、そう言える自信がある。
今までは流されるままに生きてきた。
でも……。
もう、そうじゃない。少なくとも、ここに立っている私は、自分の足で歩いてきた。
「すみません、一瞬我を忘れてしまいました。本当に申し訳ないです。しかも、先に名乗らずに申し訳ありませんでした。私は――」
「ヴェルドだったよな。オイラ、ちゃんと知っておるぜ! 見えることなら、オイラの知らねぇ事なんて、これっぽっちもないんだぜ! 見えないことは、見えるまで見続けるんだぜ! でも、それでも見えない時は、想像することで補ってるんだぜ! どうだ? まいったか? これを『けんさん』って言うんだぜ! 恐れ入ったか! コラ! オイラの頭の中には、『知らない』っていう言葉は入ってないんだぜ! 今は滅んでもうなくなった、タムシリン王国の最後の
ディーナさんの前に置かれていた水晶球がしゃべり始めたかと思うと、とんでもないことを言い出した。
真の姿? なんだ、それは? ていうか、なんか私に恨みでもあるのか?
だいたい、この世界に来てから、姿かたちを変えた記憶はない。
あえて変わったとすると、全ての精霊たちを宿した時の姿だろう。
でも、基本的には変わらないはずだ。
しかし、
こいつは、危険な存在だ。
しかも、身に覚えのない恨みまで買っている。
この国の勇者ではないとわかったら、私はともかく、後ろの二人まで危険に巻き込まれる
事としだいによっては、怒って割ることも考慮しよう。
警戒心を最大限に動員した瞬間、頭の中にあの時のことが飛び込んできた。
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