第54話災い来たりて
焼き魚定食を食べ終わり、ルキがデザートのあんみつを食べている間、私はこの街の変化を改めて考え始めていた。
お互い定食は食べ終えている。
ルキの図書館への入館申請は、時間がかかるから申請書だけを先に提出しておいた。
あいにく、司書のミリアさんが休みだったので、今日中の登録はあきらめるしかない。
もっとも、ミリアさんがいたとしても、ここの登録がスムーズにいくとは思っていない。
どちらにしても、今日中は無理だとわかっていたから、元々ルキの買い物だけの予定となっていた。
ただ、今日は買うというよりも、どんな店があるのかを見て回るだけという事だから、割と今ここでのんびりする事が出来ていた。
まあ、ルキがあんみつというのを食べてみたいといったせいでもあるけど……。
この麗しの宿亭は、魔導図書館の前にあるから、私は以前もここで寝泊まりしていた。
部屋は個室が多く、ベッドも割と心地よかったのを覚えている。
大通りからは少し離れたところにあるので、この区画は閑静なたたずまいとなっていた。
まあ、魔導図書館の前だから、普段から人でにぎわっているわけじゃない。たぶん、図書館に用事のある人たちのための宿と言った方がいいのだと思う。
私も魔導図書館が閉まった後に寝る場所としていた。
ただ、以前は寝る場所として利用してただけだから、正直食事とか堪能したわけじゃない。
この街にしても、大門から港まで続く大通りを少しだけ歩いただけで、ルキを案内できるほど詳しいわけじゃない。
でも、今とあの時では感覚がまるで違っていた。
どこか暗い……。
何となく、勇者がいるような、そんな圧迫感を街の人がもっている気がする。
でも、この街の中にはマダキで退治したようなゴロツキどもは見かけなかった。
そもそもここには、港の前に冒険者組合ガウバシュ支部もあるし、その目の前は自警団本部がある。
他の街に比べて、治安面ではかなり安心できるはずだと思う。
そしてこの街には、出入り口が大門一つしかない。
大門から港にかけての大通りから枝のようにわかれる道はあるけど、その先に街から出る手段はなかった。
全ての出入りが大門を通ることになっており、仮に陸地側から何かあっても、大門を閉じてしまえば、街は城壁で守られる仕組みになっている。
海側にもそれがあり、その門の前が冒険者組合と自警団本部となっていた。
この街は交易港として、古くから栄えているから、陸側の守りを一か所に集中し、海賊や他の国との戦闘に対して海側の防備を固めた結果だろう。
いかにゴロツキどもが大挙して押し寄せても、守るに易く、攻めるに難い街となっている。
だからこの街は、大通りが街の状態を反映してくれていた。人と物の行き来が盛んなときは、大通りも人や物が多く、そうでない時は、少ない。
すなわち、大通りを通れば、大体の雰囲気は感じる事が出来るともいえよう。
今は、人通りが少ない。以前映像で見た時よりも、減っている感じがする。
一体何が……。
ハボニ王国が攻めてきたとはいえ、王都から離れたこの場所は、戦火にあうこともない。それが、この世界の戦争だ。
この街との交易のある、デザルス王国やガドシル王国で何かが起こっているのだろうか?
噂では、各国が戦端を開いているとも聞いている。
これが、戦争の影なのだろうか……。
争っている国だけじゃない、その影響はいろんなところに出るのかもしれない。
何となく、気分が落ち込もうとした矢先、明るい声が私に向けられていた。
「おいしー。君も食べなよ! おいしーよ! でも、これはあたしのだからあげないわよ」
頬に手おあて、至福の表情を浮かべるルキの笑顔に、今は考えても仕方がないことだと思い直すことにした。
ここでは、私がすべきことは無い。
冒険者たちがいる。自警団もいる。
それに、私のできる事なんて限られている。
この国は、やっと勇者から解放されたんだ。それがほんの少しだとは言え、私が壊していいわけがない。
ただ、最悪の場合には手を貸そう。幸いと言っていいか分からないけど、私はこの街では冒険者だった。
「そうだね、じゃあ、頼もうかな」
奥にいる女将さんに声をかけようとしたとき、表に比較的強い力の存在を感じた。
図書館の中から出てきたのだろう。まっすぐこっちに向かってくる。
勇者じゃない。
でも、相当な手練れとみた。
そして、ここに向かってきている。
さて、どうするか……。
戦いになっても、負けるとは思わない。でも、今は面倒事にかかわっている時間はない。正直言って、この感じは面倒事が来るとしか思えない。
「どうしたの? 食べないの? おいひーよ?」
ルキが頬張りながら、不思議そうに私を見ていた。
まあ、いいか。
なるべくかかわらないようにして、やり過ごそう。
ルキ以外とは、一切話さないようにすればいい。
「すみません! おかみさん。あんみつ一つください!」
「いや、全部で四つだよ! ぼうや、ありがとね。お姉さん、遠慮なくいただくわ!」
店に入ってきたのは、やっぱりあの三人組だった。
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