漏れた計画
「どこから漏れたのかは分かってるのか?」
俺はマリウスに聞いてみた。彼は僅かに眉を顰める。あんなことを切り出せば100%聞かれる話だと思うのだが、聞いちゃまずかっただろうか。
マリウスは小さく息をついてから言った。
「ある程度はね」
そもそもあの計画を知っている人間が限られているだろうから、消去法で残った人間の誰かということになる。その中には一応、俺も含まれてはいるだろう。
なんせ〝黒の森〟の奥にひっそりと住んでいるのである。どこかのタイミングでしれっと公爵派に連絡を取っていてもバレることはない。
もちろん、家族たちが黙っていれば、であるが。
願わくは俺がリストの末尾にいることくらいだな。
「じゃあ、そいつの出番は無しか?」
俺は箱の中に戻った〝神竜の爪〟を指さした。マリウスは首を横に振る。
「いや、これを公にするかはともかく、どのみち帝国の使者に渡すことになる。オリハルコンは預かっているだけだからね。問題は――」
「お主の偽ナイフの件をどうするかだな」
マリウスの言葉を侯爵が引き取った。いつも豪快な御仁の瞳が、射竦めるように俺を見つめてくる。
「正直なところを言えば、うちは今すぐどうこうということもないですね」
「ほほう?」
侯爵の片眉が上がった。俺が烈火の如く怒り狂うと思っていたのだろうか。
「あれにうちのが負けるとは思えないですからね」
俺はニヤリと笑う。侯爵の片眉は再び跳ねるように上がった。
「私が作ったときは当然として、家族が作っても大丈夫ですよ。なので我々エイゾウ工房は今回は見送るということでも、特に異存は無いです」
「いいのか?」
「ええ。もちろん、ずっと野放しというのは困りますが。それは我々もですし、カミロもでしょうからね」
「うむ」
侯爵は深く頷いた。カミロが立ち行かなくなれば、侯爵にとっても使っている商人が減ることになる。
1人減ったところで、と考えることもできるかもしれないが、カミロには謎の腕前の鍛冶屋(俺である)と友人で、帝国や北方に繋がりがある。
帝国のほうは表だってのものかはさておき、皇帝陛下直々に商売を許されているような商人でもあるわけで、それをみすみす立ち行かなくさせるわけにもいかない。
そうなれば帝国から侯爵の、ひいては主流派の手腕に疑問をつけられるかも知れないからで、それは侯爵としても避けたいはずだ。
「いずれ追わねばならんことはワシも分かっておる」
「で、あれば今回は見送るのも手では?」
「だがなぁ……」
腕を組んでしまう侯爵にマリウスが助け船を出した。
「今回は国王陛下は御臨席なさらないが、〝上〟の方が来ることになっていてね」
「偉いさんの前で大事にすれば、黙殺されたりすることもない?」
「そうだね。帝国の使者の前というだけでは意味がない。彼らは帰ってしまうし、王国でどうなろうと知ったことではないからね。だけど、今回は大事にすれば気にしてくれる方がいるし、その方のご命令とあらば、公爵派の妨害を気にせずに徹底的に洗うことができるのさ」
「なるほどねぇ……」
前の世界の仕事でも、上司を巻き込んで大事にすることで、会社として動いてもらい、事態を進めたことがあったが、それと似たようなもんか。コツは偉すぎる人のところまでは届かないようにコントロールすることだが、今回このコツは役に立たなさそうだ。
「次にいいタイミングがいつ来るかも分からないし、出来れば今回の機会は逃したくないんだけど……」
「〝神竜の爪〟を逆手にとられて、オリハルコンの出所のほうに持っていかれるとマズいな」
「かと言って、エイゾウのナイフをそのまま出してもね」
「パッと見にはほぼ同じものだからな」
「うん。帝国の使者に恥をかかせるだけになる。オリハルコンのナイフという土産があれば、それで相殺も可能だろうけど」
そこでマリウスは一旦言葉を切って、俺の家族のほうを見た。
「そこで、大変申し訳ないのですが、貴女には1つ、手伝って欲しいことがあるのです」
それはアンネのほうだ。彼女はマリウスの言葉で自分を指さして、キョトンとしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます