都へ

「と、言うことなんだが」


 テラスで朝食を食べながら、俺は皆に言った。準備に少し時間がかかってもテラスに出ているのは、今日はアラシは早々に帰らず、しばらくここで休んでいくことにしたようだったからだ。


「他には何もなし?」


 自分の食事の合間に、ルーシーに肉をやっていたディアナが俺に聞いた。俺は頷く。


「何か書けないような事情があるのかしら……」


 ディアナはおとがいに手をやった。理由もなくいきなり来いとだけ書いてある事実から、漏れてはいけないなにかを記載しないようにしたのかも、と考えるのはそう不思議なことではない。

 リケが苦笑しながらディアナに返す。


「もしかすると、ちょっとした悪戯かも知れないよ」


 相手がカミロとマリウスの場合、その線も捨てがたいのは確かだ。急いで来させるくらいの悪戯ならかわいいものである。

 だが、俺は首を捻った。


「うーん、悪戯なら逆に何らかの言い分をつけてくると思うんだよな」


 カミロとマリウスは悪戯をしかけてくるとき、演出が大仰になる傾向にある。

 いつもの通りの悪戯含みなら、もっともらしい理由をつけてくる。例えば帝国の人が予定より早く来て、早く帰ることになったとか。

 そんな、まるきり嘘でもない話――この場合は帝国の人が実際に早く到着をしたとかだ――織り交ぜてきたりするものだが、今回はそんなこともなく、シンプルに用件のみが記されているわけである。

 そう、「オリハルコンのナイフができあがり次第、都へ来い」とだけ。


「ヘタに理由を書くと悪戯を警戒するかもと思ったから……?」


 サーミャが続けた。俺は捻った首を戻して頷いた。


「うん。まぁ、すぐに来ないかもとは思ってないだろうが、悪戯じゃないことは示したかったんじゃないか」


 俺が言うと、アンネが大きくため息をつく。


「悪戯じゃない証明に理由を書かないって、随分面倒な親友なのねぇ」

「それを言われるとぐうの音も出ないな」


 俺は苦笑した。普通は逆だろうと言われたら何一つ言い返せない。


「世界は広いんだし、中にはそういう友達がいてもいいんじゃない」


 アンネは今度は微笑んだ。まぁ、オッさんとオッさんとイケメンだし、多少面倒なくらいなほうが関係が続くのだ、多分。


「ともかく、モノはあるんだ、出るなら今日にも出られるわけだが」


 そう言って、皆の顔を見回す。皆、俺のほうをじっと見ていた。いや、娘達は多分ママ達がそうしているからしているだけと思うが。

 僅かばかり訪れた沈黙を吹き飛ばすかのように、サーミャがフンと鼻を鳴らした。


「どのみち行くんだろ? 遅いか早いかだけだし、さっさと行って済ませようぜ。街よか遠いけど」

「ですね」


 リディがうんうんと頷く。いずれ納品には行くわけだから、これが悪戯であっても結果は同じか。


「よし、じゃあ今日は全ての予定を変更して、都へ行こう」

「「はぁい」」

「クルルルルル」

「ワン!」

「キュィッ」


 皆の声がテラスから、のどかな森に響いた。


「じゃあアタイが準備一番乗り!」


 黙っているなと思ったら、さっさと朝食を済ませたヘレンが〝迅雷〟の二つ名を示すように、自分が使った食器を手に家に戻り、「ずるい!」と憤慨するサーミャがそれに続いた。

 俺たちは笑いながら、ゆっくりとその更に後へ続くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る