決着
これまでは立っていた
「アンネ!」
ヘレンの鋭い声。アンネは「フッ」と息を吐き、大剣を振り下ろす。頭も手足もほとんどがなく、唯一残った右足も動かないのでは避けようがない。アンネの大剣が邪鬼の胴体を普通の生物なら心臓があるあたりから両断した。
俺は叫んで注意を促す。
「油断するな! 倒せたなら全部が消えるはず!」
全員頷きあうと、油断なく両断された胴体を取り囲んだ。少しの間固唾を呑んで見ていたが、消えたのは胴体の下半分だけだった。という事はつまり……。
ズルリ、と無くなったはずの胴体が再び生えてきた。間髪を入れず、アンネの大剣が邪鬼の身体を襲い再び両断した。どういう条件でそうなっているのかは分からないが、両断された上体の首から頭が生えてくる。
そちらはすごい速さでヘレンが切り飛ばした。あの声を上げられるのが余程嫌だったのかも知れない。そうだったとしてそこには同意しかないが。
複数回胴体を両断されても、そのどちらからも身体が生えてくるということはない。
こうなってくるとほぼ勝負はついていた。再生する先から、俺、ヘレン、アンネの誰かが切りとばす。腕だけで活動する可能性もあるにはあるが、そこはディアナの槍とサーミャとリディの弓に任せる。
邪鬼は全ての部位を同時に再生させたりもしたが、胴をアンネが、片腕を俺が、残りの腕と頭をヘレンが素早く落としてしまうので、邪鬼は“手も足も出ていない”。
「いつまで復活するんだこいつは……」
ヘレンが愚痴をこぼす。彼女が首を切り飛ばすのも、もう何度目になるか分からないから無理もない。勝負がついている、と言うことと、戦いがいつまで続くのかは関係ないのだ。邪鬼が雲散霧消するまで戦いそのものは続く。
救いなのは魔物なので血も出ないし、“死んだ”部位は消え去ることだ。これが通常の生物なら切り飛ばすたびに、その部位が残り、あたりは文字通りの血の海になっていたことだろう。とは言え、何度も見たいと思うような光景でないのも確かだが。
「せいっ!」
これも何度目になるか分からないが、アンネが大剣を振り下ろした。またもや狙い過たず胴体を両断する。少しアンネの攻撃に遅れが生じてきているような気がする。
このまま俺たちが邪鬼を倒し切るのが早いか、俺達の体力の尽きるのが早いのかの持久戦になってきて、少し勝負の雲行きが怪しい。
俺も自分の薄氷を振るい、時間差で生えてきた腕を斬る。俺は違和感を覚えた。
「生えてくるのが少し遅いか?」
「そうだな」
俺が疑問を口にすると、ヘレンが今度は更に時間差で生えた頭を飛ばしながら同意した。となると……。
「リディ!」
「減ってます!」
俺が叫んでリディに確認をすると、思った通りの答えが返ってきた。邪鬼は周りの澱んだ魔力で再生する。再生する元になるものが減ってくればどうなるかといえば……。
もう少し同じことを繰り返していると、明らかに様子が変わってきた。
「さっきから腕と頭しか生えてこないな」
「だな」
俺とヘレンは頷きあう。おそらく邪鬼の、というか澱んだ魔力が限界を迎えているのだろう。ズルリ、と一瞬で生えてきていた腕も今はかなりゆっくり生えてきているし、その間隔も広がってきている。
「ヘレン」
俺が声をかけると、ヘレンは再び頷いて両手の剣を閃かせる。邪鬼のほとんど残骸の様になってしまったそれは、一瞬でいくつかの塊になってしまい、1つの塊を残して全てが消え去る。
残った大きめの塊が身じろぎをするようにうごめいていたが、やがてそれも動きを止め、溶けるように消え去った。
「リディ!」
「はい!」
俺が言うと、リディは弓から手を離し、目を閉じて神経を集中させる。そっとサーミャとディアナが近くに寄った。まだ完全に油断はできない。
俺たちも間隔を空けて周囲を警戒する。今のところ俺には何も感じないが、ヘレンのようなプロではないし、チートだよりの俺の感覚だ。どこまでに当てにしていいものやら。
しばらく身じろぎ一つせずに集中していたリディが、大きく息を吐いた。俺はそっとリディに尋ねる。
「……どうだ?」
「引っかかりません。この場の澱んだ魔力はなくなったようです」
という事はつまり……。
「やりました!」
リディは今日一番の大声をあげ、俺たちもワッと歓喜の声をあげる。討伐は成功だ。ドッと疲れが押し寄せてくる。
きっと同じなのだろう、へたり込んだアンネに駆け寄ってやるヘレンを見ながら、俺も地面にゴロリと転がった。胸の内は喜びで満たされている。
俺はその状態で大きく、大きく息を吐いてから立ち上がり言った。
「さあ、凱旋しよう!」
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