井戸掘り段取り

 井戸を掘る場合、この森でやるとしたら概ね2種類の方法が考えられる。


 まず露天掘り。乱暴に言えば単純にシャベルで掘っていく方式である。空気の循環なんかを考えたら広めに掘っていき、湧いたところを木の板や石で囲ってさらにその周りは埋め戻す。

 用意する道具が少なくて済むことと、広く掘って湧水するところを多少は探しやすいのがメリットだが、ロスの多い方法だし崩落の危険もある。無限に掘る場所を広げるわけにもいかないし。

 次に上総掘りと言われる掘り方だ。櫓と専用の道具を使ってボーリングしていく方法である。やるには当然櫓も道具もそんなに複雑でないにせよ作る必要がある。だが、露天で掘るよりは早いし安全だろう。


 さらに言えば掘った後だ。釣瓶で汲み上げる方式にしても跳ね釣瓶を作るのか、あるいは手押しポンプを作るのかなど考えることは多い。

 ただ、上総掘りと手押しポンプについては、このあたりにはない技術だし、水の確保というのは栽培と居住に大きく影響する。

 つまり、イコール領地運営に影響してくるわけだ。ろくな水資源もない、人が住むには適さない広いだけの不毛な土地だと思っていたら、不透水層より下には豊富な水があって豊かな生産力を誇るようになるかも知れない。

 そしてそれは国にとっては力なのだ。そういうものをこの場だけとはいえ設置するのもなぁ……。


 そんな事もあって、井戸掘りを持ちかけた日の夕食後、俺が露天掘りで釣瓶を設置することを提案すると、みんなからは特に異論は出なかった。

 崩落については心配だが、この辺りの土壌の硬さを考えるとそうそう崩れはしまい、


「いつからやるんだ?」

「そうだなぁ」


 サーミャに聞かれて、俺は腕を組み天井を仰いだ。魔法のランタンの明かりで黒さが幾分薄らいでいるが、思考を集中させるには十分な暗さだ。


「早めがいいから、明日からでもはじめたいくらいではあるんだが」

「別にそれでいいんじゃねぇの」


 サーミャが事も無げに言った。目線を下ろすと、皆も特に異議は無いらしい。とはいえ、ちゃんと納品はしていかないといけない。

 貯金というか使ってない金が沢山あるから、しばらくは仕事しなくても問題ないが、今後数十年お世話になるかも知れないのだ。ほぼ自給自足のスローライフに入ったら頻度は減らすと思うが、それまでは信頼も貯めていくに限る。


「カミロんとこへの納品って量足りてたっけ?」

「前が多かったんで今回は十分なはずですね」


 俺が聞くと即座にリケが答えてくれた。他の作業をしていても週あたりの納品ラインは守ってこれたのだから、他の作業がなければ余剰が出るのは当然か。


「じゃあ、そっちは問題なし、と。肉の貯蔵は……聞くまでもないか」


 そっちはサーミャが頷いた。よく食べるのがいる(最近増えた)おかげで「干したり塩漬けにしても食べきれない分を捨てる」という事態にはなってないが、保存している分も増減なしか微増くらいのペースなのだ。

 食料全部を家に運び込んで籠城すれば、食料の観点からは3ヶ月くらいは保つんじゃなかろうか。それも特に量を制限せずにだ。家の中で水を確保する手段がないので実際には籠城出来ないが。そもそも、そんな事できる構造になってない。


「それじゃ、お言葉に甘えて明日からやらせてもらうか。最初は場所の選定と掘るところからだな」


 頭の中でなんとなくの作業の割り振りを考える。なんだか前の世界でやってた仕事っぽくなってきたな。こっちは仕事と趣味と生活のハイブリッドみたいなもんだから、そのぶん気は楽だが。

 なんせこれには納期がない。ああ、素晴らしき哉ノー納期。その分ダラダラしてしまわないようには気をつけよう。


 その後、いくつか日常生活の話をして、俺は皆より一足先に自室に戻るのだった。


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