外でのお昼ごはん
「先にここらで昼飯にするか」
何度か釣りに来たことがある川にたどり着いた。ここまであちこちへうろついていたので、結構な時間が経っているはずである。
天を仰ぎ見ると、太陽はその恵みを最も強く与える位置に差し掛かろうとしていた。
ここの川原なら昼食をとるのに問題はあるまい。俺が言うと、クルルとルーシーも含めた全員から同意の声が返ってきたので、早速準備を始めることにした。
「あっちにいた時は、こういう機会ってあんまり無かったわね」
昼食の準備を進めながら、しみじみとアンネが言う。
「国の偉い人は管理してる森や山で狩りとか、野原でお茶会とかしてそうだなと思ってたけどな。貴族同士の付き合いって大事だって聞くし」
「ええ……」
俺が言った言葉にアンネは少し引いている。あれ、違うのか。
「そういうことに重きを置く人もいることは否定しないけど、そもそも家族でのんびりこういうことするのと、事実上戦場と同義の貴族同士の社交とは違うでしょ」
「なるほど。そりゃそうだ」
俺は素直に頷いた。まぁ、あの皇帝陛下がしょっちゅう「予は今日暇だからお前の母上と一緒にピクニックに行くぞアンネ! おお、ハリエットも一緒にどうだ?」と言っているところは想像できな……いや、できるな。むしろ言いそう。
だからこそ、そういうことをあまりしたことがないってのに違和感があったのかも知れない。
でも、どう考えても忙しくないわけがないのだから、機会が少ないのも当たり前なんだよな。それなりに周囲に人はいたのだろうけど。
俺が「すまん」と一言言うと、アンネは手をひらひらと振った。
「なんだそれ」
「エイゾウがよくやってるでしょ。あれの真似」
「ああ……」
つまりは問題ないとか、気にするなってことだが、こう客観視すると少し気恥ずかしいかも知れない。でも癖みたいなもんだからなあれ。心の片隅にでもとどめておこう。
準備が終わって、全員車座に座って手を合わせる。
「いただきます」
『いただきます』
「クルルルル」「わんわん!」
今日の弁当はサンドイッチ……のようなものだ。前も作った角煮バーガーに近いが、畑で育てた生食が可能な香草と、根菜を戻したものも挟んである。
「うまい!!」
一際大きな声を上げたのはサーミャだった。彼女はこういう食べ物が大のお気に入りみたいなのだ。以前にディアナからこっそり、彼女が狩りのときの弁当を楽しみにしていると聞いたことがある。
それ以来、以前にもまして俺が腕によりをかけているのは言うまでもない。肉を確保してくれていることもあるしな。
飲み物は家で淹れてから、そのまま持ってきたミント茶だ。すっかり冷めているが、じんわりと暑い今日みたいな日にはぬるくてもいいし、ミントの清涼感がありがたい。
「しまった、金属の容れ物にして、川で冷やせば良かったな」
グッと1杯目を飲み干した俺はそうつぶやいた。そうすればアイスティーに近いものが楽しめたかも知れない。冷えるまでに相応に時間はかかるだろうが、冷たいのとぬるいのではまた違っていただろう。
「まぁまぁ、今日はこれでいいと思いますよ」
同じく1杯目を飲み干して、ほうっと息を吐いたリケがそう言った。ドワーフだからなのか個人の好みなのかは分からないが、彼女はどうも冷たいものは苦手らしい。
「もう少し暑くなってくる前に、井戸を掘ってみるか……」
井戸の底は地上よりはかなり温度が低い。冷やしたい、というか温度が低いままにしておきたいものを、そこに沈めておけば冷たい果物なり水なりを飲食できるわけだ。
今年は間に合わなくても、来年以降使わなくなるわけでもないし、風呂計画も一歩前進するわけだし、そろそろやっても良いタイミングではあるな。
「水の確保もできますしね」
「畑の水にも困りにくくなるしな」
俺がそう言うと、聞きつけたリディがこっちを見てウンウンと首を縦に振っている。どうも彼女の今一番の関心事は畑らしい。エルフの種も蒔いてあるからだろうけど。俺が笑いながら、
「わかった、なるべく優先するよ」
と言うとリディは、
「お願いします」
あまり大きくない声で返してきた。井戸掘りも頑張るか……。
俺はのんびりと川原を眺める。昼飯を食べ終わったサーミャとヘレンが、クルルとルーシーの鬼ごっこだか追いかけっこだかの相手をしてやっている。
川原なので足元が良いとは言い難いのだが、4人ともなかなかのスピードで走り回っていて、バターになってしまうのではとすら思えてくる。なんせ1人は虎だし。
「はしゃぎすぎてコケたり、川に落ちたりすんなよ!」
俺が大きな声でそう言うと、4人から「わかった」の声が返ってきて、俺は小さくため息をつきながら、2杯目の茶をカップに注いだ。
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本日9/11にコミカライズ版3話が更新になりました。こちらも合わせてご覧いただけると大変嬉しく思います。
https://denplay-comic.com/
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