夏が来る
翌朝、水を汲みに行こうと家を出ると、元気なクルルとルーシーに出迎えられた。
どんなに疲れていても一晩寝れば回復できるのは若さゆえだろうか。大変に羨ましい。歳を取るとどんどん回復量が減っていくからな……。上限値そのものも減っているような感覚があるが。
それはともかく、俺とクルルはいつも通りに水瓶を2つずつ持つ。ルーシーには小さい壺に短めの紐を結んで口にくわえられるようにものを用意して渡すと、紐をくわえてご機嫌さんである。
ワンと吠えると落ちるので、一生懸命に尻尾をパタパタと振っていた。
「それじゃあ行こうか」
俺はクルルとルーシーの頭をなでて、一緒に水汲みへと向かう。今日はまた後で沈めた獲物を取りに湖へ来るのだが、大物の獲物と一緒に水もとなると流石にクルルがかわいそうだし、彼女たちも朝のこれを待っているみたいなので多少二度手間ではあるが汲みにいくのだ。
湖に着いてから水を瓶と壺に汲み、俺とクルルとルーシーの身体を綺麗にする。ルーシーは昨日ドロドロになりすぎたので洗われているのだが、自ら率先して湖に飛び込んだ。
もしや「湖=身体を綺麗にするところ」という認識なのだろうか。いや、水汲みのときは綺麗にした後でゴロゴロはしないしなぁ……。
やっぱり暑いのと皆が入っていったからついてった、というのが大きそうだ。
ひととおり終わったらすぐに帰ることにする。朝の日課を終えたらまたお出かけだしな。
「帰りは分かります!」とばかりに俺たちを先導して、なかなか派手に壺から水を撒き散らかしながら、ご機嫌に歩いていくルーシーの後を俺とクルルはついていった。
朝の日課をすべて終えると、準備をして一家総出で湖へ獲物の回収に向かった。今はクルルもいるし、人数も増えたので本来はこれだけの人数で向かう必要はない。
ないのだが、半分はピクニックのようなものなので、息抜きがてらである。
陽の光が少し強くなった森の中を進む。樹々が遮ってくれているので直射日光はほとんど浴びなくて済むし、駆け抜ける風も涼やかなので感じにくいが、気温が上がっているような気がする。
「暑くなってきたなとは思ってたが、こうやって外に出ると実感するな」
俺はそうボヤいた。以前よりも少し汗が出るのが早いように思う。
「鍛冶場に篭もってると、どのみち暑いですからねぇ」
斧を持ったリケがウンウンと頷いている。熱した鉄や燃える炭という高熱源がほぼ1日中存在する鍛冶場はかなり暑い。
ある意味強制的に暑熱順化させられているようなものなので、暑さには強くなってきているが、それなら暑さを感じないかというと、それはまた別の話だからな。
「もう少ししたらもっと暑くなるぞ」
そう言ったのはサーミャだ。この森のことなら彼女の言うことに間違いはない。
「鍛冶場から出ても暑いのはちょっと勘弁して欲しいなぁ」
慣れてきても暑いものは暑い。合間合間に外に出たりして涼をとっているが、それが無くなると作業効率的にもよろしくないような気がする。
ミストシャワーみたいなものを作るべきだろうか。そこまで行かなくても、ただのシャワーのようなものでも作ったほうが良いのかも。
いずれ火床や炉の廃熱で湯を沸かすような仕組みも作りたいしなぁ……。
それも作ったところで、今度は「そんな大量の水をどこから確保してくるのか」が問題になる。耕作地もあることだし、いよいよ井戸を掘ることも視野に入れないとダメっぽいな。井戸を掘る道具は俺が作れるとして、思ったあたりに水が出てくれるかは別だ。
もし水が出なければ、湖から引いてくる必要がある。前の世界で無人島に水路を通しているTV番組を見たが、あれと同じようなことをここでもやるわけだ。
アレでも随分と時間がかかってたので、こちらでもそれなりの時間が必要になるだろう。できれば井戸で済ませたいところだ。
「あそこ以上に暑いとこなんて、そうそうないでしょ。あんな暑さが外でもあったら、木や草花が全部枯れちゃうわよ」
暑さ対策と水資源についてアレコレ考えていると、やや呆れた感じでアンネが言った。彼女はうちに来てそんなに経ってないから、暑さには一番慣れていない。
「そうだなぁ。あまりに暑すぎてほとんど砂や岩しかないところもあるくらいだからな」
「そうなのか?」
俺が砂漠のことをチラッと言うと、意外にもヘレンがのってきた。傭兵であちこち行ってたはずだが、砂漠には行かなかったのかな。
俺は頷いて、ヘレンに砂漠の説明を始める。その話に皆が(多分理解してないであろうクルルとルーシーも)聞いている。
こうして、俺たち家族は湖までのんびりと、息抜き目的を十分に果たしながら向かっていった。
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