増築
「いや、そんなのでいいのか?」
ワイワイと盛り上がる皆を制するように俺は言った。皆の視線が俺に集まる。
「なんかもっと高いものとかでもいいんだぞ。新しいアクセサリーとか」
「いや、そう言うので欲しいものは今ないし」
サーミャが言った。皆はうんうんと頷いている。アクセサリーは前に買ったし、あれがあるからいらないと言われればそうか。
「それに、優れた職人の時間は高いですし」
今度はリケだ。特注品の剣が金貨2枚を下らないとすると、俺の1日の時間を金銭に換算するならそれくらいということになる。
つまり、純粋に金銭的に考えたとしても、下手にアクセサリーみたいなものよりも、こっちの方が高い可能性は結構あるな。
「何かを買って渡して終わり、とかよりも時間のほうがいいのは確かね」
ディアナがリケの後を引き取るように続けた。
「まぁ、みんながそっちでいいと言うなら、俺はそれでかまわんぞ」
俺がそう言うと、皆は何をしようかという話に戻っていった。当然ながら、俺がその話に割り込むことは出来ない。
あまりに無茶な要望が出そうなら止めようと思ったが、そういうことも無いようなので、俺は黙々と食事を進めるのだった。
翌朝、一通りのルーチンを終えて、部屋を増築している辺りに来た。とっくに柱や根太、垂木はかけられていて、廊下に当たる部分には床板が張られていて、壁の部分にも一部板が張ってあった。
元はアンネの部屋に置かれていた普通サイズのベッドが立てかけるように置いてある。
「1部屋はしばらくの間、納戸代わりに使う」と聞いていたからだろう、廊下の幅は若干広めになっていて、資材なんかを運び入れるときも余裕を持って入れられそうだ。
なので廊下の一部を占拠してはいるが、作業の邪魔になるほどではない。
「こりゃ早ければ今日にでも終わるんじゃないのか」
「エイゾウ達が手伝うならそうかもな」
俺の言葉にヘレンが答えた。3人も人手が増えてるからなぁ。
人を3つに分けて、板を作るチーム、床板を張るチーム、壁板を張るチームに分かれる。
板を作るチームは床と壁の板の後は屋根板を切り出し、それも終われば屋根張りに移る。チームメンバーは力の強いヘレンとアンネの2人組(正確には切り出した板をクルルが運ぶ3人組)である。
ヘレンとアンネの間には因縁がないわけでもないので少し心配だが、ディアナに相談したところ、「大丈夫でしょ」と即答が返ってきたので、ならいいかとこの組み合わせにしておいた。
あとは俺とリケが床板、残りのみんなは壁板だ。ルーシーには全員のところに出向いて応援する係を命じておいた。いずれ身体が大きくなれば、手伝えたりするのだろうか。
置いてある板を床の根太に打ち付けていく。俺はチートで、リケは経験でスムーズに作業が進む。先に床板を張って作業スペースと資材の置き場を確保するのだ。
「親方の作業は速いですね」
「そうか? 経験ではリケに全然かなわないが」
「親方は迷いが全くないですからね。何年もやってる職人みたいです」
「リケにそう言ってもらえるなら、俺も安心して作業できるよ」
俺の方は”なんとなく分かる”でやってるだけなので、ほんの少しの申し訳無さも覚えながら、板にあてがった釘に鎚を振り下ろした。
朝からトントンと鎚の音を響かせて昼。全員テラスで昼食にする。もちろんルーシーとクルルも一緒だ。メニュー自体は”いつも通り”のものだが、晴れてそよぐ風が気持ちいい中とる食事は普段と違っていいものだな。
食べ終わってからの食休み、サーミャにヘレンとディアナが走り回るクルルとルーシーに付き合って遊んでやっている。
「元気だなぁ……」
「ほんとね」
俺のつぶやきにアンネが同意の声を洩らす。5人の動きを目で追ってはいるが、自分も混じろうと思うほどの体力はないらしい。
獣人族のサーミャ、その狩りに付き合ってさんざん鍛えられたディアナに、無尽蔵かと思うほどの体力を持つヘレンと比べるのが間違いだと言われたら全く反論はできないのだが。
「そろそろ作業に戻ろうか」
食器の後片付けをリケやリディとしながら、俺は声をかけた。さて、もう少し頑張らねばな。
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