テラス建築開始

 翌日、朝の日課と身支度を済ませた俺達は、材木置き場に集まった。クルルとルーシーも何をするかはよく分かってないだろうが、なんとなしな感じで集まっている。


「まずは柱にするやつを選ぶとこからか」

「昨日雨が降りましたからねえ」


 リケの言葉に俺は頷く。濡れたやつを柱として立てるわけにもいかない。昨日の降り方だと多分そんなに濡れてはいないと思うが、念の為だ。

 幸いこの森の木は基本真っ直ぐに育っている。だが、テラスの柱だし、多少曲がっていてもそれはそれで味があっていいだろうし、乾いていてある程度の長さがあればどれでも良い。


「これが良さそうだな」

「こっちは?」

「ああ、それもいいと思う」


 そんな感じで皆で手分けして柱になる材木を探し、8本を確保した。


「こんだけあればいいだろ」

「テラスはどこに作るんだ?」

「そうだな……」


 サーミャの問に俺は考え込んだ。中庭には畑がある。リディのおかげでなかなか立派なものになっているし、そっちの方には作りたくない。


「今の廊下の先に作るか。あっちの方もまだ土地はあるだろ」

「あるにはあるけど……」


 言ったディアナが途中で口ごもる。俺は先を促した。


「けど、どうした?」

「部屋を増やさないといけなくなったときは?」

「それはないだろ」


 俺がそう返すと、ディアナを含めた全員がジト目で俺の方を見てくる。何を言いたいのか言わずともわかった。


「……万が一その時がきたら、直角に廊下を作ればいい。畑は最悪違うところを開墾しよう」


 皆はため息をつきながらだが、納得はしてくれたようで、作業に取り掛かってくれた。


 作業はまず俺とリケ、ディアナとヘレンで柱を建てる穴を掘る。他の2人は柱にする木の皮を剥ぐ作業だ。

 穴掘り組はショベルを、皮剥ぎ組は鎌をもってそれぞれ作業する。ヘレン以外は何度か経験している作業と言う事もあってか、午前中にはほぼ作業が終わってしまった。

 午後には穴に柱を建てる作業だ。ここはクルルが大活躍する場面でもある。


「よし、それじゃクルル頼むぞ」

「クルー!」


 柱に括り付けたロープの端をクルルにも結ぶと、クルルは力を込めて引っ張り始めた。ルーシーは「お姉ちゃんがんばれ」とでも言うかのように、あたりを走り回ってワンワンと言っている。

 車輪付きとはいっても、俺たち全員+大量の荷物を牽いて平気なクルルの力はさすがなもので、一度動きはじめた柱はスムーズに設置場所まで動いていく。


「よーし、ストップ」


 俺の声のとおりにクルルが止まった。ここからは人力で穴の縁まで柱を移動させる。俺とリケだけでも十分力はあるのだが、今回ヘレンも加わったことでよりスムーズに動かすことが出来た。

 そこから穴に落とし込むのは再びクルルの仕事である。ゆっくりゆっくりと移動させて、端が落ちたら今度は立てていく。

 前はここも人力のみで行っていたが、クルルが来てからはだいぶ楽になった。あっと言う間に柱が立ち、周りを埋める。埋める作業はルーシーも後ろ足で手伝ってくれた。

 かける土の量としては特に手伝いにはなっていないのだが、なに、こう言うのは心意気である。「ありがとうな」とクルルとルーシーの両方を撫でておいた。


 柱は8本あるので、同じ作業を8回繰り返す。


「柱が立っただけでも、なんとなく形が見えてくるもんだなぁ……」


 何度かみた光景(一回は見逃している)だが、こう言うところは毎度感心する。

 今日の作業はここまでで、後は明日柱を埋めた土の具合を確認し、緩んでいれば再度固め、床や屋根の作業はそれからである。

 なので、今のうちにそのあたりをどうするかを話しておいた。


 あたりを太陽が橙色に染めていく。その中に建てられた8本の柱に俺はテラスでくつろぐ家族の姿を見たような、そんな気がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る