第8章 帝国の皇女編

次の日からはいつもの通り

 都へ日帰り旅行に行き、ルーシーが魔物になっていると判明した日、帰ってきた俺たちはすっかり疲れてしまっており、夕食を適当に済ませるとクルルとルーシーを含めて、皆さっさと寝た。


 翌日はいつも通りだ。朝起きて湖へ向かい、クルル、ルーシーと自分自身を綺麗にする。

 クルルは昨日長距離を進んで土埃なんかが多かったので、洗い流してやるといつもよりも気持ちよさそうだった。

 ルーシーがプルプルと体を振って辺りに水をまき散らすのはいつも通りだ。


 クルルと俺とで水瓶に水を汲んで家に戻ったら、俺は朝飯の用意をしながら、皆は朝の準備をはじめる。

 全員女性なので、今日は外に出ないと言っても俺より時間がかかる。その間にスープを作ったり、無発酵パンを焼いたりだ。


 そう言えば、おやっさんは次々と料理を繰り出してきた。他にも結構な数のお客さんがいるにも関わらずである。

 そこがプロとの違いであるのもそうなのだろうが、圧倒的な力の差があるな。このあたりがいくらチートとは言っても、そこらよりも少し上ってレベルまでしかない俺の生産チートの限界だ。


 とは言っても、逆に言えばそこらの連中には負けない程度の腕前はあるわけで、それが日々の生活に潤いをもたらしているのも確かだ。

 それで家族6人が仲良く出来るなら、それが一番である。このチートで金を稼ごうという気はないのだし。


 準備と朝飯を終えたら、鍛冶仕事の始まりだ。火床に火を入れ、炉を用意したらそれぞれに分かれて作業を開始する。

 今回のノルマは鍬が50本、1日の目標は10本で、前回は11本を製作することが出来たから、今日も大丈夫だろうという目算である。そこから残り約30本にしても、3日間あれば平気だろう。納品までには十分に間に合う。問題はその後だ。

 いや、ノルマが達成できないとかではない。雨季が来るのだ。雨季が来て外に出られないとなると、卸にもいけない。

 カミロのところに武器の類いは多く卸しているから、カミロのところの在庫次第では、次の納品を2~3週間後にして貰って、その間は雨季に備えたり、家族共通のアクセサリを作ったりして過ごしたい。


 それもまずは今回の納品を無事に済ませてからである。鍛冶場に家族が振るう鎚の音が響いた。


 それから4日間、時々リケやヘレンの歌う仕事歌(ヘレンは歌がうまかった)に助けられながらも、毎日ルーティーンのように仕事をこなした。

 作りあげたのは56本の鍬。予定を上回る数ができあがった。これならカミロも文句は言うまい。


 鍬の製作最終日の晩、ノルマ達成を祝ってささやかな祝杯をあげた。

 その席でそのまま今後の予定について相談する。


「アタシは出ない方が良いと思う。獣人もこの時期はねぐらから出ないし」

「そうねぇ」


 サーミャとディアナも外に出ないことについて異議はないらしい。


「そうなると、ひさしつきのテラスを作ったりとかですかね」

「あとは、狩りをして肉の確保でしょうか」


 リケとリディにも異議はなく、ヘレンは「この森に来たばかりでよく分からないから皆に任す」との事だった。


「じゃあ、基本家から出ない、早めに狩りは済ませておく、家の中で出来ることで過ごす、ってことで」


 多分最大の問題はクルルだと思うが、まぁ、水汲みに連れて行けば事情は察してくれるだろう。あの子は賢い子だし。


「それじゃあ、明日もよろしくな」


 俺の言葉でその日はお開きになった。翌日はカミロのところへ納品だ。もう一つのいつもに備えて、俺はゆっくりと体を休めるのだった。

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