備中鍬
翌日、俺たちはカミロの依頼をこなすべく、3チームに分かれる。
リディとヘレンは材木を切って鍬の柄を作る。
サーミャとディアナは板金を、そして、俺とリケが鍬の刃部を作る。クオリティはもちろん”一般モデル”だ。
放棄地だと言うし、形は平鍬ではなく備中鍬――先が4つくらいに分かれている鍬にする。
前の世界の日本だと江戸時代くらいの発明らしいが、原型は弥生時代に、鉄製のものも古墳時代にはあったと言うから、この世界にあってもおかしくはないだろうし、万が一先取りしてしまっても大きく文明を進ませてしまうようなこともあるまい。
「最初の1つは作り方を見せておこうか」
「お願いします」
火を入れておいた火床で作りおきの板金を熱する。なんだか随分と懐かしいような気もするな。
板金に熱がまわったらタガネで2/3くらいまで3つの筋を入れて、枝分かれさせながら、ざっと形を整える。
この辺りで温度が下がってきているので、もう一度火床に入れて加熱するが、その前にリケに形を見せておく。
「形的には大体こんな感じだ」
「なるほど」
そして火床で加工できる温度まで熱する。火床の炎がジリジリと俺の顔を灼き、目を細めて俺は額から落ちる汗を拭う。それでも火床からは目を離さない。
ちょうどいい温度になったら火床から取り出して、金床に置いて仕上げていく。鍬にも刃があるので、刃先の方ほど薄くなるように仕上げる。
”一般モデル”だしチートを使っての加工なので、微修正も発生しなかった。
刃ができたら、もう1度火床に入れて、今度は刃と反対側の加工だ。タガネと鎚を上手く使って四角い、柄を取り付ける部分を加工していく。
そこが出来上がったら完成……ではない。
「これで形は出来たな」
「まだあるんですか?」
「この後、焼入れと焼戻しがある」
焼入れと焼戻しの作業は他の刃物と変わらないので、勝手知ったる感じで作業できた。もう耳慣れたジュウと言う音と、冷えていく感覚を手に感じながら、丁度いいところで引き上げる。
その後、火床の火で炙るようにして少し温度をあげたら完成だ。リディとヘレンが切ってくれた角棒を差し込んで、クサビで固定し、「ちょっと試してくる」と言いのこして俺は外に出た。
中庭にある畑のそばに立って、鍬を振り上げ、腰を入れて勢いよく土に突き刺す。畑の外の土だから、まだ耕されて無くて硬い。手にはその感触が伝わってくる。
だが、鍬は土に深々と突き刺さっている。
「よっ……と」
ぐいっと鍬で土を掘り起こした。結構深い位置まで掘り起こすことが出来ている。この時に平鍬だと、硬かったり粘土質の場合刃に土がくっついて作業しにくいのだそうだが、備中鍬なら土がつきにくく作業がしやすい。
しかし中腰で作業するのは30代の体でもなかなか腰に来るな。前の世界だと大正時代くらいに踏み台のついた備中鍬が発明されていて、それなら立ったまま作業できるらしいが。
「これなら十分か」
俺はトントンと腰を叩きながら、鍬を担いで作業場に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます