第7章 アポイタカラ編
街から帰って
家に帰ると、いつものとおりに荷物を運び入れる。クルルは久しぶりに荷車を長い距離牽くことが出来てフンスと鼻息も荒くご機嫌だ。
今日からは人手が1人分増えているので、手分けするとあっという間に終わってしまった。
寝具も調達したので、新しく増えた部屋の一方に運び込んでヘレンの部屋はそこになる。
ヘレン個人の荷物は基本的な身の回り品については今日新しく調達しておいたので、それで賄うことになった。足りないものは追々だな。
服については「兄さんが家のをたくさん持ってきた」ディアナのを最初はそのまま着てもらって、そのうち手直しすると言うことで決まった。
「街へ行った日は帰ってきたら自由時間って事になってる。ヘレンも好きにしてていいぞ」
「そうなのか?」
「ああ」
俺は頷いた。とは言え、まだ何もないから出来ることも少ないとは思うが。
「じゃあ、ちょっと走竜の様子を見てくる」
そわそわと言う擬音が聞こえてきそうな態度でヘレンが言った。ずっと気にはなっていたらしい。
「私も一緒に行くわ」
それを聞いたディアナが手を挙げた。ママが一緒なら大丈夫だろう。
「何もないとは思うが、気をつけてな」
「うん」
「わかったわ」
2人頷くと外に出ていく。俺はその背中に声をかけた。
「ああ、そうだ、ディアナ、今度から夕方の稽古はヘレンにつけてもらえ」
「いいの?」
振り返ったディアナの目がまん丸になっていた。捕まったって言っても、別にヘレンの腕が悪かったわけじゃない。少なくとも1対1では俺より強いのだ。
これはヘレンの自信を取り戻す練習にもなるかなと思っているし。
「うん。ヘレンにもその話はしてある」
帝国から帰還する途上でヘレンにその話をしたのだ。最初は少し渋っていたが、俺が頼み込むと意外なほどあっさりと頷いてくれた。
カテリナさんがその話を聞いて「お嬢様はずるい」とひどく羨ましそうにしていたが。
「じゃあ、あとで頼むわね」
「手加減はしねーかんな」
「望むところよ」
「大怪我はしないようにな」
キャッキャとはしゃぎながら出ていく二人を追いかけるように俺は声をかけた。だが、あの様子だとどれくらい届いたかは分からんな……。
これから先を考えれば、うちの戦力が向上するのは歓迎こそすれ否定することはない。
女性しかいないので、その全てを女性に任せなくてはいけないところに、元地球人で古臭いオッさんの観念が疑問を投げてくる。
「女だけ、か」
ちょっとした作業をやろうと思い、鍛冶場に入りながら俺はふとひとりごちた。
前にも気にはなったことだが、うちには俺を除けば男は誰ひとりとしていない。クルルもメスらしいし。特に選ばずにそこそこの期間を過ごしてきて、こんなに女性ばかりと知り合うものだろうか。
いや、マリウスやカミロ、サンドロのおやっさん達男性とも知り合ってはいるのだが、うちに来るような男性が今のところいない。
この世界に住むそこそこの年齢の男性なら基本的には定職を持っているので、うちに来られるような条件にはならないのも確かではある。
それを考えればうちに来るのが女性ばかり、と言うのもおかしい話ではないのだが……。それにしても多すぎやしないだろうか。
俺はちらりと神棚を見やった。祀ってある女神像の微笑みが、自分で彫ったものなのに意味ありげに見えて仕方なかった。
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