救出
叫んだあと、俺は松明をすばやく持ち替えて鞘から剣を抜き放つ。それを見て逃げ出すやつもいるが、何割かは立ち向かってきた。
俺は上段に振りかぶった剣を振り下ろす……と見せかけて松明を放り投げた。火の着いた松明が飛んでくるのだ、当然のごとく一瞬怯む。
俺はそこを見逃さずに斬りかかる。元々腕前の差は相当あるようだったが、スキを作ったことで幾人かを容易に斬り伏せることが出来た。
生き残りも手に持った武器で襲いかかっては来るが、俺はその全てを剣で払い、斬り捨てる。
5人ほど倒したところでフランツさんが「あとは私にまかせてください」と加勢してくれたので、投げつけた松明を拾いつつ、開いた部分をめがけて走り込む。
周りの混乱とすぐ前の戦闘の音で内部の人間は出払ったらしく、中はひっそりと静まり返っていた。
戦闘のチートの感覚でも、俺に敵意を持つやつは誰も居なさそうではあるのだが、もし誰かが潜んでいたらマズい。
もどかしい気持ちもあるが、そろりそろりと奥へ歩みを進める。
本来は引火の危険を考えれば、松明などは持ち込めない場所である。炎が荷物に移ってしまわないようにするのにも苦労した。
倉庫の一番奥に辿り着いたが、人らしき姿は見えない。だが、誰かがいる気配はする。
俺は松明を振りかざして辺りをうかがった。辺りには荷物が入っているであろう箱がうず高く積み重ねられている。
注意深く見てみると、その一角に隙間があるのが分かる。ちょうど人が通れるくらいだろうか。
火が移らないよう、松明を下げてその隙間を通る。熱をモロに感じるが、そんなことは気にしていられない。
隙間を抜けると、そこはちょっとした空間になっていた。屎尿の臭いはしないが、人の体臭のようなものは少しある。気配もそこにあるので、誰かがいることは間違いない。
上には荷物がないので、松明をかざして様子をうかがうと、身じろぎする人影が見えた。俺は慌ててそこに駆け寄る。
倒れ伏しているが、少し伸びた赤毛の髪に見覚えがある。脚には足かせがつけられていて、逃げられないようになっているようだ。
身じろぎしたから生きてはいるのだろうが、積極的に何かをするような気持ちでは無いように見える。
「ヘレン。」
俺は倒れている人影に声をかけた。人影はビクリとすると、ゆっくりと顔をこちらに向ける。
「エイゾウ……?」
刀傷のある顔はすっかりやつれているが、それでもまだ愛嬌は残っていた。俺の知っている顔だ。
「ああ。俺だ。助けに来た。待ってろ、今足かせを壊してやるからな。」
「エイゾウ!」
ヘレンは体を起こす。しかし、いつもの力強さがない。いつから囚われていたんだろう。囚えた連中に怒りが湧くが、まずはここから連れ出さないと。
松明を床に置き、ヘレンに近づく。すると、ヘレンはがっしりと俺の体を掴んで離さない。
「お、おいヘレン。」
「エイゾウ、エイゾウ……」
声を掛けるが、ヘレンはぎゅうっと腕を掴んでくる。
ヘレンのここまでを考えると、俺はそれを無碍に振り払うこともできずにいた。
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