新しい武器

 倉庫の建設には4日程かかった。納品物は2週間分が必要とは言え、1週間ほど集中して作れば十分な量が確保できることが分かっているので、つまりは3日は別のことが出来るというわけだ。


 と、なればアレをやるしかない。そう、青生生魂アポイタカラ――ではなく、狩りをする組向けの弓の作成だ。弓はまだ作成したことがない。そこで、新しい武器を作れば腕前が上がるのかどうかをまず試してみたい。

 その上で、アポイタカラで何を作るべきかをじっくり考えるのだ。


 だが、ここで1つ問題がある。俺の持つチートで一番レベルが高いのはあくまでも「鍛冶屋(鍛冶職人)」だ。「武器職人」ではない。包括的な「生産」に関係するものもチートは貰っているが、鍛冶屋よりも何段も落ちる。

 落ちるとは言っても、普通の職人よりは良いものが作れる。それは確実なのだが、果たしてどこまでの物が作れるのかだ。その実験も兼ねておきたい。


 そんなことを倉庫が出来た日の夕食時に、みんなに相談した。

「いいんじゃねぇの?」

「弓が増えれば、私も使えて狩りの時助かるわね。」

「私ももう少しお手伝いができます。」

 サーミャ、ディアナ、リディの狩りに出ていく組(リディは残るときも多いが)に異論はないようだ。

「親方が木製の武器作るのは初めてですね。」

「そうだな。なので変なものが出来るかも知れない。」

 リケも特に意見はないみたいなので、翌日からは俺は弓を作り、他の皆はいつもの作業ということになった。狩りは「せっかくだから」と俺の弓づくりが終わるまで延期するらしい。責任重大だな。


 翌日、朝の日課を終えたら、新しく出来た倉庫に材木を取りに行く。適当な大きさの材木を持って、作業場に戻った。

 いくらかの資材と他に場所がなくて作業場に干していた肉を倉庫に運んで、それらが無くなった作業場はなんだか俺がここに来た時よりもスッキリして見える。悪く言えば生活感が消えているが、作業場に生活感があってもなとは思うので、これでいいんだろう。


 他の皆が板金を作っている横で、材木を割って比較的しなやかな部分を板として切り出す。それを3つの細長い板に分割して後はひたすら削り出していくだけ、ではある。前の世界で実際にそれで弓を作る動画を見たりしたな。

 この時、Cのような形にするわけだが、逆反りになるようにするか、それとも順反りにするかだ。例えば、前の世界の和弓などは作ったときの全体の反りとは逆に反り返らせて弦を張る(正確にはもっとあちこちに反りがあって、それぞれ名前がついていたりするが)。

 基本的には森の中で使うので、丸木弓の短弓で良いかと思った(実際サーミャの持っているのはそれだ)が、せっかくなので少し工夫もしたい。

 そこで、最も得意なのは鍛冶屋であるわけだし、薄い鉄板を貼り付けた合成弓コンポジット・ボウで短弓を逆反りの形で作ってみることにした。


 まずはじめに木を削って薄い板を作る。どちらかと言えばこれはただの土台だ。ある程度の厚さを持って、ヘニャヘニャでもなく、さりとて引いたり放ったりした時に折れないしなやかさが保てればいい。

 この辺はチートとナイフの性能のおかげでちょうどいい塩梅をなんとか見つけることが出来た。今時点ではただの板だしな……。次はこれに貼り付ける鉄板だ。


 鉄板の厚さはサスペンションほど分厚いと到底人間で引き切る事ができないし、薄すぎると今度はさほど意味がない、と言うことになりかねない。出来上がりの姿を想定しつつ、サーミャ、ディアナ、そしてリディの3人の力に合わせた厚さが必要になってくる。

 そこらはチート任せにするしかないか、と俺は板金を取って火床に入れた。ここからは鍛冶屋のチートが効いてくれるといいんだが、と思いながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る