戦の始末
喜びの喝采を上げた後、兵士達は駐屯地へ戻る。リディさんはエルフたちと一緒に一旦里へ戻り、明日改めて駐屯地へ来て一緒に帰る事になった。
駐屯地に戻ってくると、サンドロのおやっさんたちが食事を用意して待っていた。そう言えば、昼なんかとっくに過ぎている。
「みんなお疲れさん!さあ、しっかり食ってくれや!」
おやっさんが兵士達の喧騒に負けない大声で叫ぶと、緊張が解けて急に空腹を意識した兵士達が簡易食堂に走って向かっていく。
「そんなに慌ててもメシの量は変わんねぇぞ!」
おやっさんがそう言って、場は残った兵士達の笑いに包まれた。
俺はちょっと先にやっておきたい事があるので、出張所に向かう。そこに護衛してくれた部隊の隊長が「おいアンタ!」と声をかけてきた。
「今日は本当に助かった。それと……すまないな。」
隊長は眉根を寄せている。隊長はホブゴブリンを倒したのが俺だということを知っているから、その手柄が俺に来ないのを気に病んでいるんだろう。
「なに、一介の鍛冶屋のおっさんがそんな名誉貰っても嬉しくはないから、別にかまわんのさ。金にならんしな。」
俺は笑いながら右手を差し出した。隊長は困ったようなはにかんだような顔でその手をグッと握りしめてくる。今までの経験が伺える、ゴツゴツとした手で。
戦いでの栄誉はチートで賄っている俺なんかより、こう言う人が貰ったほうが良い。俺は改めてそう思った。
出張所に戻ると懐の女神像を棚に置いて、今回の無事のお礼を言っておく。
槍のほうも予想外に世話になったので名残惜しいが、心の中で礼を言った上で柄を外して穂先だけにした。こいつは家に帰ったら、もう一度柄と石突をつけてやろう。
俺は指揮所に向かう。先にこっちに来たほうが効率は良かったのだが、先に女神像を棚に戻しておきたかったのだ。指揮所に入ると、喜びと興奮と、そして明日の撤収のための準備でなかなかに騒がしい。
俺はぐるりと見回して、机にかじりついているフレデリカ嬢を見つけた。ちまちま物書きをしている。彼女はこれから向こう1週間ほどは忙しいはずだ。一番休めるのは帰還中の馬車の中かも知れない。
心苦しいが、これも仕事なので俺は話しかける。
「フレデリカさん、ちょっと良いですか?」
「あ、エイゾウさん。はいです。ちょっとだけお待ちくださいです。」
フレデリカ嬢は帳面への書き付けを終えると、こちらに向き直った。途中で別の話すると、元の仕事に戻った時に何してたっけ、ってなるよな。
「なんでしょう?」
「今日の修理の有無を確認したいのと、片付けた鍛冶場の資材やらを片付ける人手がちょっと欲しいんです。」
「ああ、なるほどです。」
フレデリカ嬢は机の上の書類をバサバサとめくって、1枚を眺めながら言った。
「ええと、今日は修理はないです。壊れた武具はいくらかあるんですけど、帰りは予備でまかなって、戻ってからまとめて修理に出すので間に合いそうなのです。エイゾウさんには申し訳ないですけど。」
ここで直すと俺に払う金がかかるからな。俺から見れば、その分儲けられたのがなくなるってことではある。
「いえ、お気になさらず。今日はもうヘトヘトなんで、むしろありがたいくらいですよ。」
これは謙遜やら遠慮ではなく、偽らざる心境だ。一応普通に行動はできているが、さすがに戦闘までこなして、さあ修理だ!と言えるほどの元気はない。
「ありがとうございますです。撤去に使う人員は後で向かわせますので、その者たちにお任せくださいです。」
「わかりました、ありがとうございます。フレデリカさんも根を詰めすぎないように頑張ってください。」
「はいです。」
フレデリカ嬢はこっちがホッとするような笑顔で笑いながら言った。その朗らかな笑顔に見送られて、俺は指揮所を出る。修理がないなら後は片付けるだけだな。
出張所に再び戻って、火床の炭やら
「戻って力仕事させちゃって悪いね。」
「いえいえ。これも仕事ですから。」
まだまだ若い感じの兵士たちは2人1組で出張所の中の物を運び出していく。その間に俺は棚の女神像やらをしまいこんで、張っていた布をたたみ、出張所は姿を消した。
短い間だったが、自分の作業場がなくなると少し物悲しさがある。所々に残った道具の設置跡が、廃工場を見たときのような物悲しさを余計に掻き立てている。
「世話になった。ありがとうな。」
その跡にそっと手を置き、礼を言って、俺は出張所を後にした。
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