道はまだ半ば

 翌日、朝飯を食い終わった俺とリケは、俺が2週間前に材木を積んだところにいた。サーミャは弁当を持って、狩りに出ている。「今日の獲物はできたら樹鹿がいいな……」と言っていたので、期待したい。


「さて、今日からはこの材木を使って、部屋の建て増しをしていく。ただし、間違いなく時間がかなりかかるから、一日の半分を部屋の建て増し、もう半分で鍛冶仕事になる。」

「わかりました。」

「それじゃ、始めるか。」

「はい、親方!」

 元気よく返事をするリケ。それじゃあ、作業に取り掛かろう。


 サーミャに聞いたところ、ここらでは地震も少ないし、雨もそんなには多くないらしい。実際ここに来て暫く経つが、降雨にあっていないしな。気候的には、前の世界のドイツ辺りに近いのだろうか。この森の名前も”黒の森”――ドイツ語で言えばシュヴァルツヴァルト黒い森だし。

 それはともかく、基本的にはそんなにジメジメしていないようなので、礎石は置かずに、直に柱を埋める方式で増やす部屋を作る。前の世界の話だが、多湿の日本でも伊勢神宮の式年遷宮が20年に一度であることを考えれば、ここでなら住む家かどうかと言う違いはあるにせよ、柱そのものは同じかそれ以上にもつはずだ。なので、この方式で問題ないだろうと考えた。


 柱を建てるための穴を、前に作った鍬の柄の部分を、刃と直角ではなく、平行につけるように手直ししたもので掘っていく。この辺りの地面だけなのか、それとも森全体がそうなのかはサーミャに聞き忘れたが、結構固い土をしている。

 この固さは出来の良い鍬と、強化されている筋力がないと結構厳しいと思う。俺にはそれらがあって良かったと、心底転移させてくれたやつに感謝する。


 やがて結構深く掘れたので、そこに柱になる材木の端がかかるようにしたら、材木を縄でくくって引っ張っていく。俺とリケの二人でグイグイ引っ張っていくと、やがて穴の縁に材木の端が引っかかり、材木が立ち上がって、穴にストンと落ちた。

 立って柱になっている材木を俺が抱えて何回かドンドンと叩きつけて、底を固める。その後は材木を俺が抑えて、リケに穴を埋め戻してもらって、とりあえず柱を建てることができた。

 同じ作業を午前中いっぱい繰り返して、2部屋分くらいの柱を建てた。でもこれまだちょっとグラつくから、明日にでも補強入れないとダメだな。


 午後はリケお待ちかねの鍛冶の時間だ。とりあえず俺と並行して、ロングソードを作ってもらうことにするか。一般モデルは在庫ないしな。なので、昼飯の前に型を2つ作っておく。昼飯を食べたら、鉄を溶かして型に鋳込むわけだが、今回は俺は火入れと(俺が一人のときは魔法で風を送っている)だけやって、鋳込むところはリケにしてもらうことにした。外に出て見聞を広げようとしているだけあって、手付きに淀みはない。程なく2つの型に鉄を流し終えた。


 冷めるのを待つ間、今度はナイフの在庫を作る。これは俺がまずやってみて、その後リケにやってもらう。

 教えようにも俺の鍛冶の能力はチートだから、教えようがない。それに今回は一般モデルなので、そんなに力も入れられないから、「見て盗め」方式なのが申し訳ないが、今日のところはこれで学んでもらおう。

 板金を取り出し、火床で熱したら、鎚で叩いて形にするが、あまり力は入れずに形を作る程度にとどめておく。その作業の間、リケは一瞬たりとも見逃すまいとしていた。

「どうだ?得るものはあったか?」

「ええ。親方、やっぱり凄いですね。鉄の声が聞こえてるみたいです。でもこれ、本気じゃないですよね。」

「わかるか?」

「そりゃもちろん。全然力が入ってませんでしたし。なにより、あの見せていただいたロングソードと比べたら一発です。」

 ああそうか、リケは高級モデルを見ているんだった。

「今日見せられるのはこれだな。また明日、もう一つ上を見せる。」

「いいんですか!?」

「ああ。弟子に出し惜しみしても仕方がないだろう。今日のは売り物にするための在庫を作るからこうしただけだ。」

「ありがとうございます!親方!」

 リケは今にも飛びついて来かねない勢いで喜ぶ。

「それじゃ次はリケだ。」

「はい!」

 リケは俺と同じように火床で板金を熱し、鎚で叩く。ドワーフだからだろうか、その姿には力強さがあった。


 やがて板金はナイフの形になった。やっとこで掴んだままのそれを持ち上げ、俺の方を見る。

「どうでしょう?」

 言われて見てみたが、俺の作る一般モデルと比べても遜色はない。ただ、熱して叩いている間に、ほんのわずかだが、バラつきのようなものが出てしまっている。なんと言うか、鉄の組織がそこだけ違うかのような。これがチート持ちとリケの違いだろうが、ここまで見て確信したのは、リケは俺の高級モデルなら確実に作れるようになる、と言うことだ。

「いい出来だ。だが、まだまだ上を目指せる。俺は教えるのが下手で、見て盗めとしか言えないが、確実に昨日見せたロングソードは打てるようになる。」

 俺がそう褒めると、リケは

「はい!精進します!」

 と、はつらつとした笑顔で応えるのだった。

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