決戦は、近い。

 言葉が出なかった。


 王領寺の結論は、論文のように冷たくて、血が通っていない風で。


「――快楽殺人か、意識なく殺人か……ともかく、穗積と父親に確執があったのだろう。陳腐な推理だと、「宝物を闇に流そうとしたどちらかに反抗しているうちにもみ合いになって、死んだ」だろうが、あの穗積がそんなヘマをするとは思えないね」


 王領寺は、やはり教科書を読む口調で続けた。


「ならば、「護ろうとして殺した」ならば、穗積らしい。プロファイリングはできねぇが、昔犯罪心理学の心得を取った。人はね、憎しみ逢うより、護ろうとした殺人のほうを隠すんだよ。――憎しみは抱えていられねえ。しかし、秘密は抱えておける。自己納得真理。自分が納得し、受け入れたなら、嘘発見器も意味がねえのさ」


 王領寺の話はどこをとっても信憑性があった。でも、信じたくない。


「――だって、うちの軒先に人形を置いたのは」

「偶然かと思ったが、桜雛八幡宮って「天照」大明神だったよな」


 突然神さまを出されて、長柄は頷いた。


「だとすれば、「あ」だ。どこでも良かったんだよ。見つけるのが面倒だから、一番「祟られない」神の神社を探す。愛宕神社、伊勢神宮では、崇徳上皇の穢れに触れる。おまえの神社は出入りが激しい。――それに、説法を心得ているなら、人心の拐(かどわ)かしも簡単にできる。人形の運び屋に暗示をかけておいて、自殺させるとか」


 長柄はさっと廊下を振り返った。


「誰かいたような気がするけど……ね、今の話、聞かれたんじゃない?」

「かもな」


 相変わらず薄笑いを浮かべている。


「――だとすれば、有栖川宮の太刀も、人形も、全部謎が解ける。長柄、今晩で片をつけよう。恐らく、太刀の入札期限も同時。――穗積を甘く見るな。あの、京都弁が隠せるわけがない。どこかに、証拠がある。と、同時に、和宮の真実も忘れてはならねぇ」


 王領寺は切なげな表情を浮かべた。薄笑いなど、彼方まで吹き飛ばして。


「――左手にあったもの。埋葬に奪われたと思っていた。面倒な絡繰りだ。京都で、死した本物の和宮の遺体を入れ換えたんだ。その時、既に和宮の左手は切り落とされていた。人形を抱えていたが、和宮とは限らん」


 長柄は二日前の、穗積の態度を思い出す。


 夜、むせ狂うような千本桜の幻想の中、穗積は何かを抱いて、立っていた。


 ――あれは、刀じゃない。


「――さて、今夜が勝負だな。じゃないと、宮家の怨念に、俺が殺される。ま、やるだけやってみようか」



 ……王領寺が、殺される。



「やだよ……」

 長柄はクビを振った。


「嘘でも、殺されるなんて言うな。――幽霊とっ捕まえるのは、あたしの仕事だ。一般人はひっこんで震えてろ。何で、危険だって分かってて、京都……」

 優しい視線とかち合った。


(分かってる。こいつは優しいから、全部、全部全部救いに来たんだって。ばかだよ。歴史を救うなんて、できっこない。なのに、あんたは、ひとりでそれに立ち向かってる)


 ――あたしも、立ち向かう。


 あたしのやりたいこと、見つけた。王領寺と、歴史に向かい合うことだ――。


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