始まりは――……?

(始まりは、うちに置かれた人形だった。とっても不気味な人形だったんだ。嶋香姉が幽霊を受け入れて――流水大学を訪ねた。

 王領寺と天領さんに出逢って、鈴音とも再会した。で、お姉ちゃんのスゴさを知って――……)



『わたしの…………左手……』

「左手? ああ、左手が何か?」

『左手の、あの人の……ごと、消えた……逃げるが、やっと……足も、動かな……。桜の下で逢える……月が綺麗な、あの、橋……。わたしに――贈ってくれるはずの……ない。そして、殺された……わたしは京都に帰れな……大坂で……だから、殺す。わたしを、全てを――……!』〟



(その橋に、まさにあたしは立っていて、王領寺の傍にいる)




『京都の宝積寺に行こう――』そう王領寺は告げて、長柄とともに、飛騨高山より三時間を掛けて、京都は「宝積寺」(ほうしゃくじ)にやって来た。


『よう来はりましたどすなあ』穗積さんに迎えられて――


(穗積さんは、「「あんさん偉おすね(あんた、えらいね)」とあたしの頭を撫でてくれたんだ。優しかった(いけず)な笑顔。あれも嘘だったと言うの?)


 ――俺は俺がみたもの、感じたものしか信じない。



 遠くに見える王領寺の背中を見詰めた。


(ねえ、王領寺。全てが終わるのかな。みんな幸せにはなれないの?)


 三条大橋の人気が消えた。夜の十時は丑の刻。みな、鬼を恐れて外出しない時間だ。三条大橋の三条河原、六条河原には鬼が棲むという。


 ――戦国で処刑された生首が今も生きていると聞く。


「近藤勇の首が、首塚を探して飛び回るんだってよ。平将門はここで処刑されたが、けらけら笑って、東京方面に首になって飛んで消えた――長柄」



 大きな月だ。

 夜空がこんなに不気味だとは思わなかった。三条大橋の側面にゆっくりと月明かり。



 かつん、かつん。


「まるで亡者を黄泉に送る、水先案内人の音だな」


 王領寺はせせら笑って、持たれかけさせていた上半身を橋から起こした。足元の吸い殻を拾って、ハンカチに包み込む。



 ――亡霊が立っていた。








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