嘘つきな大人たち

「あの……陰陽師ちゃん? な、何を言い出すのかな、おっさん驚かせちゃだめだろ」


「愛ですわ。わたしはずっと、長柄ちゃんを支えにして来ましたの。突然現れて、それでもというならば、この、陰陽師たるわたしの前で、永遠の愛を誓いなさい!」


 聞いていた長柄が気が気ではなくなった。「あの!」と声を掛けるも、鈴音は「お黙りあそばせ!」と強い口調で言い返した。


「――陰陽師修行の過酷さを知っていて? 父と一緒に、此の世ではない者達を相手にする精神力と、呪いを学びましたわ。寝ることもできなかった。そんなわたしの心の支えが長柄ちゃんでしたのよ。――許せない。……命を削ってあやかしと向かい合ったわたしの前で、生半可な気持ちは許せませんの」


 ずい、と片足を踏み込ませて、鈴音は続けた。


「さあ! このわたしの前で、言いなさい」


「――陰陽師ちゃん」


 王領寺は小さく息をつくと、ゆっくり鈴音に歩み寄った。


「大人は嘘つくよ? 考えりゃわかんだろ。平気でね。笑顔で、常識なんぞなんのそので。俺がここで、長柄に誓って、それで済む? 俺が嘘をついていたらどうする?」


 王領寺は射し込んだばかりの朝日に目を細めた。


「先のことなんか、わかんねぇ。――この時を大切にする。それで、いいんじゃねぇか? 俺は長柄に聞いたよ。俺のことが好きかって」


 鈴音の目が長柄に向いた。鈴音は親友だ。多分、考えは間違ってないはず。鈴音が長柄を困らせるような行為をするはずがない。


「――こいつはまっすぐ好きだって言った。おまえら、いい女になる。俺からはそれだけ」


 鈴音と顔を見合わせた。同時に頬を熱くして、視線を背けた。


「確かに、大人って狡いですわね。……さ、もう一仕事。の前に、朝のお勤めとお掃除ですわ。とってもよい枕で寝たから、すっきり」


 鈴音は「いこ」と手を引いた。廊下に踏み込むと、目の前には巨大な朝陽が昇っていた。

 飛騨高山の朝陽は、どこか神がかった色合いに見える。


 ――かつては、様々は戦いと、神がおわした冨士。藤棚の藤が盛り。神々しい朝陽の光の洪水の中、長柄は鈴音と空を見上げた。


「おまえら、いい女、ですって。当たり前のことしか言えないのですわ」


 鈴音の顔は晴れ晴れとしていた。


「長柄ちゃん、あの人は大丈夫よ。普通なら、あそこで嘘の言葉を言うもの。波長って知っていて? 引き合う人間同士は波長で結ばれるの。考えていなくても、引き合うのよ。怖がらないで大丈夫」

「怖がってなんかないけどね」


 鈴音はにこっと笑うと、庭に長柄を連れだした。

 二人で朝の寺の庭に降りる。


「たくさん朝陽を浴びておかなきゃ。当たり前にある、光がなくなることもある。だから、お日様をたくさん浴びて、しっかり前に進まなきゃね」


「ん」


 繋いだ手は温かかった。これで、より、鈴音と結びつきが強くなった気がする。巫女と陰陽師。交わし合った気持ちは本物だから――。


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