見えない未来の歴史に飛び込んでみようか――

***

 王領寺の愛車に向かいながら、長柄は尋ねてみた。急にかぐや姫なんて言い出した根拠が聞きたくなった。


「……王領寺。さっき、あんたなんでかぐや姫の話、したんだよ」


 巫女の直感が起き上がる感覚。似ている。この境遇は、むしろ、似すぎている。

 今度は天領を捕まえた。


「天領さん! 和宮とかぐや姫の関係があったりしない? もしくは共通点! 人形の呪いが近しいものなら、あと四人の犠牲者がいるはず」


「長柄?」


 長柄は頭を押さえ、目を閉じた。



 ――かぐや姫疑似ゲーム。そんな言葉が浮かぶ。事実は繋がっていないようでいて、繋がる。しかし、繋がったものが全て解決とは限らない。



(可能性は、ある。和宮女御がかぐや姫【竹取物語】を見ることは時の流れで可能だ。いいや、むしろ、囚われの自分を「姫」と思い「気高く」いることに精一杯だったのか。その妄想が人形に宿った……とか)


 ただ、疑問がある。人形に意志は宿るのか。そして、何故〝姉は受け入れた〟のかだ。



「おまえの考え、言ってみろ」


 王領寺は車のボンネットに腕を載せて、ニヤニヤと笑っている。天領は無表情だ。


「かぐや姫と和宮の繋がりとか……和宮も外部を遮断されて、んと、天国?」

「この場合は「月世界」と言うべきだよ。もしくは、天上世界」


 天領に助けられて、長柄は「んむ~」と指をこめかみに強く当てた。


「天上世界が、天皇の世界とすると、似てるなって思ったんだ。さっきの話だと、むりやり武士の世界に放り込まれたんでしょ」


「――面白ェ新説だ」


 王領寺が指の骨を鳴らし、くっと喉を鳴らした。丸い眼鏡を押し上げて、ボンネットに両腕をかけてみせる。


 蒼空はすっかり夜の顔。寺の逢魔が時の色合いだ。竹で繋いだ柵に月光が注がれている。王領寺の鷲のような瞳に、逆さまになった月が映った。 いきいきしていく。眠そうだった目をぱっちりと開き、水を与えられた魚のような。


(なんか、嬉しいぞ、これ!)


「巫女の直感も役に立つモンだ。おい、長柄。その筋で学説追いかけてやるから、本買えよ。天領、行くぞ! ハッハッハァ学者連中を全員跪かせてやる!」


「あたしもやる! お姉ちゃんのことは、鈴音と、シスコン坊主がやれる! あたしも、一緒にそっちで動きたい」


 らしくなく捲し立てると、王領寺は「そういえば」と冷静になった。


(ここで冷静になるな! あたしがバカみたいに見えちゃう!)


「俺が好きだって言ったよな。あれ、マジ?」


「マジ決まってんだろ! 女子高生は、一生懸命なんだから嘘つくヨユーなんかないっ!」


 素で怒鳴り返すと天領が目を瞠って長柄を見やった。長柄はきゅっと唇を引き締めて頷いた。ますます王領寺の顔が輝き始める。


 一緒に心が輝き始める。そんな奇跡、知らなかった。


 ――最高の笑顔、見せるな、歴史バカ教授。


「――上等! まずは和宮の盗難状況からだな! 八幡宮へ戻るか」


「あ、颯真」遠くから笏の鈴を鳴らして、颯真が歩いて来た。「聞いていた」と大きな息を吐いて、頷いた。後から鈴音と、嶋香もやってきていた。



「お姉ちゃん! 大丈夫なの?」



 嶋香はひらひら、と手を振った。「鈴音ちゃんが結界を繋いでいるからね」だって。


「よく分かった。では、僕らは桜雛の巫女ちゃんを護ろう。好きなだけ調べて歴史の中で溺死していれば良い。神も仏も押しのけるバチ当たり二名……いや、三名か」


「牛鍋は、終わってからですわねえ。お兄様」


「あたしも食べたいよ。長柄、頑張ってね」


 暢気な姉の一言に、長柄は泣きたくなった。しかし、これも天照からの試練かもしれない。王領寺と、天領と、一緒にどこまでやれるか。



 ――あたしも、見えない未来の歴史に飛び込んでみようか。好きな気持ちだけを抱えて。



「長柄」


 ふいに姉が呼び止めた。



「あんたにも、きっと分かるよ、もうすぐ」



(ナニが?)天然の姉の言葉は、いつになく、優しく長柄の心に響いた――。

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